2009 Tougi shiryo

【討議資料】大学図書館をめぐる動き

 討議資料は、本年8月22日(土)〜24日(月)前橋において全国大会を開催するにあたり、最近の大学図書館の諸問題について、常任委員会でまとめたものです。これを参考に事前の支部例会や当日の全体会において活発な議論が行われることを願っています。

  1. 大学と大学図書館をめぐる新しい動き
  2. 国立情報学研究所(NII)とNACSIS-CAT/ILL(目録関連を中心に)
  3. 利用サービス
  4. 電子的サービス
  5. 機関リポジトリ
  6. 組織運営
  7. 出版・流通
  8. 著作権・法制度

  1. 大学と大学図書館をめぐる新しい動き
  2.  世の中は100年に一度と言われる大不況です。大学としては、18歳人口の減少などの方が深刻かもしれませんが、不況に関連する派遣切りの問題などは、派遣・外部委託の比重が高まっている図書館界においても他人事とは言えないでしょう。外部委託・派遣を使う側としての正しい理解も必要であり、この問題についての理解を含めて行く必要があるでしょう(「6.組織運営」参照)。また、国家公務員期末・勤勉手当の一部凍結について人事院勧告が出るなどの影響も出てきています。出版界も不況であり、その扱う資料の大部分が図書・雑誌である図書館としては、その動きに注目してゆかなければならないでしょう(「7.出版・流通」参照)。国立大学法人については本年度が6年の中期計画の最終年度となります。その評価によっては、補助金の減額もあり得るかもしれません。
     このように、外部的要因には好転の兆しはないようです。そして、退職者の増加、補充されない人員などの問題は続いており、技能の継承なども問題視されています。その中では、更なる自己研鑽・キャリアアップへの努力が必要になると思われます。会員の研究・実践と相互のコミュニケーションにより、自己研鑽を行う大図研として、その会員として、何がやってゆけるかを日々考えていかねばなりません(「
    6.組織運営」参照)。
     自己研鑽・キャリアアップと一口に言っても、図書館員に必要な技能も多岐にわたっています。大学の図書館の使命が学術情報を利用者に提供することであることは、間違いないのでしょうが、学術情報は電子版図書・雑誌、WEB上の情報源、ファクトDBなど多様性を高めています。利用者も、学生の多様化、一般市民への開放、産学連携による民間研究者との協働という背景の中で多様化してきています。そして、学術情報と利用者を結ぶために目録等の整理技術があります。目録は現在、アウトソーシングが進み、あまり議論が盛んではありません。しかし、NIIの報告によると、その品質低下が問題視されており、目録を支えるスタッフのスキルアップが必要なのは言うまでもありません。かつて、その技術を支えていたコミュニティは現在どうなっているのでしょうか。2009年6月開催の大図研オープンカレッジは、「今あえて目録を語ろう」という題目で開催しました。
     学術情報の基盤となっているNIIでも、今後の目録所在サービスのあり方について報告を出したり、研修用教材の準備を進めるなどの動きがあります(「2.国立情報学研究所(NII)とNACSIS-CAT/ILL」参照)。
     また、NIIの動きとしては、CSI委託事業による、大学での機関リポジトリの整備への梃入れがあります。機関リポジトリは、大学の研究成果を電子ジャーナル等によらず、自らの手でインターネット公開するものですが、この委託事業により急速に整備されました。日本では紀要を中心に根付いて行っているように思われますが、本年度の委託事業終了後、事業の継続性が保たれるかどうかを、見守ってゆかなければならないでしょう(「5.機関リポジトリ」参照)。また、この事業の中で立ち上がった、SCPJ(日本の学会等のリポジトリ掲載についてのポリシーを集めたDB)は、各大学でのリポジトリ構築に有効なものであり、今後の展開を注視してゆかねばなりません。
     利用者及びサービスの多様化の観点からは、開館時間延長、一般開放などが進むにつれ、セキュリティの確保や、利用者対応などについての危機管理の問題も持ち上がっています。さらに最近の学生のネット検索により情報を入手する動向などがあります。ネット検索は図書館サービス上も有用なツールだけに、学生とそれらのツールの関係を考えることは有用ではないでしょうか(「3.利用サービス」参照。全国大会の課題別分科会「情報リテラシー」では学生のGoogle利用について取り上げます)。
     最後になりますが、図書館法が改正され司書資格の要件等に変更が行われました。この変更は図書館員のキャリアアップにいかに影響するでしょうか。その他、インターネットや障害者を考慮した著作権の改訂、研修制度についても動きがあり、関係法制度をフォローしてゆくことも、欠かしてはならないことでしょう(「8.著作権・法制度」参照)。

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  3. 国立情報学研究所(NII)とNACSIS-CAT/ILL(目録関連を中心に)
  4. 2-1 国立情報学研究所(NII)をめぐる動向

     国立情報学研究所(NII)について、この1年を見てみると、NACSIS-CATの所蔵データの1億件突破、目録所在サービスのシステム更新、「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」の公開等、今年も話題の多い1年でした。

    (1)NACSIS-CAT登録1億件突破

     NACSIS-CATの図書と雑誌をあわせた所蔵データが、昨年7月5日に1億件を突破、図書所蔵単独でも今年4月16日に突破しました。書誌は図書と雑誌を合わせて約900万、図書単独で約870万(RECON除く)となっており、図書では書誌1件あたり約11件の所蔵という割合になっています。1984(昭和59)年11月に東京工業大学の接続開始から約24年、3月末現在では1,224機関が参加していますが、その参加機関の協力により日本を代表する目録所在情報サービスとして日々大きく成長しているといえます。この1億件突破を記念して、2月6日に記念講演会「共に創り、共に育てる知のインフラ〜NACSIS-CATの軌跡と展望〜」(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/event/2008/ichioku/index.html)が開催され、241名の参加者がありました(講演会記録集を刊行、参加機関に送付予定)。また、1億件突破記念として、「NACSIS-CAT/ILL関連文献目録(1975-2008)」(「NACSIS-CAT/ILL関連文献目録」作成委員会)がNIIのWebサイトで公開されました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/biblio/)。武蔵野大学の小西和信教授が作成したもので、NACSIS-CAT/ILLを直接取り扱った文献だけでなく、NACSIS-CAT/ILLの背景を知る上で参照とすべきテーマである「学術情報システム」や「総合目録」「目録規則」「図書館の機械化」等に関する文献も含めた約1,900件がリスト化されています。

    (2)「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」の公開

     NIIでは、平成19年6月に「学術コンテンツ運営・連携本部図書館連携作業部会」の下に「次世代目録ワーキンググループ」を設置、目録所在情報サービスについて中長期的な検討を開始し、平成20年3月に「次世代目録所在情報サービスの在り方について(中間報告)」(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_interim_report.pdf)を公開しましたが、公開後に寄せられたパブリック・コメントや「オープンハウス2008」での次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ「次世代の目録所在情報サービスを考える」(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/event/2008/openhouse.html)における意見交換・全体討論、3回にわたるワーキングでの検討結果をまとめた「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」を平成21年3月に発行、4月にNIIのWebサイトで公開されました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_last_report.pdf)。内容については以下のとおりです。

    「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」
     はじめに
     1 資料:電子情報資源への対応
     2 システム:データ構造とデータ連携
     2.1 書誌データとデータ構造
     2.2 データ連携:APIの公開と課題
     3 運用:体制の抜本的見直しに向けて
     3.1 NACSIS-CAT外に存在する書誌データの活用
     3.2 共同分担方式の最適化に向けた見直し
     4 ロードマップ
     活動記録
     (1)構成員
     (2)活動の過程
     参考文献等

     「はじめに」では、本報告書の背景として、NACSIS-CATに直接、間接に関連する、大図書館界を取り巻く環境の急激な変化として、下記6点が挙げられています。
     1)電子的情報資源の拡大とそれに伴う情報の「粒度」の変化
     2)電子的情報資源の量的、質的両面での目録記述の困難さ
     3)電子的情報資源間のリンク可能性の増大
     4)電子情報資源の増大に伴う利用者行動スタイルの変化
     5)図書館システムの複雑化
     6)参加機関における経営合理化の要請と業務の多様化への対応体制

     1〜3の各項目については、「認識されている問題点」「方向性と検討結果」「今後の課題」についてまとめられ、4については、第一次中期計画最終年から第二期中期計画全体となる平成21年度から平成27年度まで(「中間報告」では2007(平成19)年から2018(平成30)年)を年度単位で分け、「電子情報資源への対応」「データ構造とデータ連携」「体制の抜本的見直し」の3つの大項目とし、「中間報告」の6項目を見直した小項目に整理したロードマップを提示しています。

    (3)人文社会科学分野の電子コレクション整備

     昨年6月、国公私立大学図書館協力委員会よりNIIに対して、「人文社会科学分野の電子コレクションにかかる基盤的な整備について(要望)」が出されました。これまで国立大学図書館協会(国大図協)やPULC(公立大学図書館コンソーシアム)との連携により、Springer等の電子ジャーナル・バックファイルのアーカイブ事業が実現されていますが、人文社会科学分野においても、電子コレクションの利用環境の基盤的整備についても配慮を要望したものです。これに対してNIIからは、昨年7月、学術コンテンツ運営・連携本部において、その基盤的整備を推進することが承認され、「大学と連携しながら、整備すべき電子コレクションの優先順位を付けつつ、共同して基盤的な整備を進めていきたい」との回答が出されています。この結果、国立情報学研究所(NII)と国公私立大学図書館との連携の下で、国内の人文社会科学系研究に有益な情報リソースを恒久的に提供することを目的とした、19/20世紀英国議会資料の全文アーカイブデータベース(19C/20C House of Commons Parliamentary Papers(HCPP),ProQuest社)の共同購入コンソーシアムが成立しました。現在はProQuest社サーバへのアクセスになっていますが、将来的にはNIIが構築するサーバに搭載されたデータへのアクセスになるとのことです。

    (4)イベント関連

     「NIIオープンハウス2008」は昨年6月に2日間にわたって開催され、大学図書館に関連するイベントとしては、「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として「次世代の目録所在情報サービスを考える」(70名参加)、「CiNiiのいま、これから」(94名参加)、「ポスター展示」として「次世代学術コンテンツ基盤の構築」を行いました(http://www.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&page_id=541)。「NIIオープンハウス2009」は6月11〜12日に開催予定で、「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として「電子リソースアーカイブの展望」「ひらめき、ひろがる、知の可能性(かたち)―CiNiiリニューアルとウェブAPIコンテスト―」(どちらも12日)が予定されています。

    2-2 総合目録データベースと遡及入力事業

     2-1(1)でも前述したように、平成20年度末の総合目録データベースの参加機関は1,224機関(NACSIS-ILLは利用者番号を持つ機関1,083(そのうち利用したことのある機関908))、2009年4月18日現在の総合目録データベースの現状は、図書が書誌レコード8,703,143件(RECON除く)、所蔵レコード100,022,983件、雑誌が書誌レコード311,533件、所蔵レコード4,443,999件となっています。
     総合目録データベース遡及入力支援事業は、平成20年度においては、46機関59件の応募の中から、追加採択を含め16機関16件が実施となりました。内訳は「事業(A):大規模遡及入力支援」が9機関9件、「事業(B):自動登録支援」が2機関3件、「事業(C):多言語・レアコレクション」が5機関6件となっています。平成21年度においては、34機関から46件の応募があり、「事業(A)」が7機関7件、「事業(C)」が1機関1件の実施内定となっています(「事業(B)」は応募なし)。

    2-3 その他

    (1)研修事業関連

     平成20年度「NACISIS-CAT/ILLワークショップ2008」は12月3日〜5日に開催されました。2回目の開催となる今回は、NACSIS-CAT/ILLにおける「目録業務のマネージメント」に関する課題を有した15名の受講者が、3日間の集中講義により、その現状や将来像を改めて考える機会とすると共に、今後の業務に活かしていくことを目的とし、講師からの講義・事例報告を受け、グループ別に「スキル継承」「外部委託」といった課題に対する問題提起や改善案の作成に取り組んでいます。
     平成19年度に3教材が公開されたNACISIS-CAT/ILLセルフラーニング教材に、平成20年度に5教材(「目録情報の基準.雑誌編」「ILLシステム(NACSIS-ILL)入門」「ILLシステム基本操作(1)―目録業務」「ILLシステム基本操作(2)―複写業務」「ILLシステム基本操作(3)―貸借業務」)が追加、正式な運用を開始し、講習会の事前学習教材として利用されていますが、Webからの申し込みにより、誰でも学習可能となっています。平成21年度には「目録検索」「ILLシステム応用操作(1)―いろいろな依頼と受付」「ILLシステム応用操作(2)―問い合わせと回答」「ILLシステム応用操作(3)―海外機関とのILL」「ILLシステム応用操作(4)―補講」が追加されました。NACSIS-CAT編教材については順次開発中とのことです。なお、これらの新教材の開発に伴い、これまで利用されていたNACSIS-ILL自習システム(2001年度作成)は2009年3月31日をもってサービスが終了となりました。
     NIIの平成20年度における教育研修事業は10種45回の研修を開催、大学等の職員1,201名が受講していますが、平成21年度においてもカリキュラムの内容等の改善、セルフラーニング教材の更なる拡充を行っていくとのことです。
     この他、NACSIS-CATに関するものとして、NPO法人大学図書館支援機構http://www.iaal.jp/xoops/index.php)が「NACSIS-CATを正確かつ効率的に検索し、所蔵登録ができる能力があることを評価」する実務能力認定試験「総合目録―図書初級」を開始)、今後「総合目録―図書中級」「総合目録―雑誌」など5種類の認定試験が予定されています(http://www.iaal.jp/xoops/genkou/IAALjuken)。

    (2)NACSIS-CAT/ILLシステム関係

     NACSIS-CATシステムリプレイスが実施され、平成21年3月23日から新システムによる運用が開始した他、WebUIPバージョンアップ、延期されていた「Windows Vista等でのクライアント利用へのCAT/ILLサーバの本対策」、日米/日韓ILLシステム改修等が実施されました。
     NACSIS-CAT全国雑誌所蔵データ更新作業(旧学術雑誌総合目録全国調査)は既に中止となっているところですが、『NACSIS-CAT/ILLニュースレター』29号(2008.10.31)で今後の実施予定のないこと、平成21年3月31日をもって、所蔵更新リストによる所蔵データの更新、データシートによる書誌・所蔵の追加及び書誌修正の廃止を発表しました(電子データによる所蔵更新、所蔵追加とオンラインで追加・修正できない変遷報告は従前通り)。

    (3)電子情報資源関連

     電子情報資源管理システム(ERMS)実証実験は、電子情報資源の管理ツールである電子情報資源管理システム(ERMS)の国内導入可能性について検討するため、平成19年度より9大学の大学図書館関係者等と共同で実証実験を行っています。平成20年度も新たな参加大学も加わって事業が継続されており、報告書が待たれるところです。

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  5. 利用サービス
  6.  昨年の大図研オープンカレッジ(DOC)や大会の課題別分科会でも話題となった「ラーニング・コモンズ」。海外では24時間利用可能ということで学生の利用も多いという報告がありました。
     国内でも京都大学が今年一月、防犯カメラと警備員を置いた24時間利用可能の「自習室」を附属図書館内に設置したという話題がありました。一日中とは言わないまでも開館時間を延長する図書館は多いと思いますが、その一方ではサービスを見直す例も出ています。
     金沢大学の自然科学系図書館は2009年度から、2005年の開館以来続けてきた学生向けの24時間利用体制を中止し、代替措置として、同図書館を含め全ての図書館の開館時間を22時まで延長したとのことです。中止の理由としてセキュリティ、利用率、マナーの3つの問題が挙げられています1)
     これらは金沢大学だけでなく、そして開館時間の長短に関わらず、図書館サービスを行う上で共通する課題と言えます。この課題をどのように考えていけば良いのでしょうか。
     まずセキュリティという面について触れたいと思います。キャンパス内で教員が刺殺されるという今年初めに発生した事件は、我々にも大きなショックを与えました。社会人入学、地域開放など「開かれた大学」という理念の一方で、セキュリティ面をどのように保障していくのか。図書館も、今まで以上に対策を求められる事になるでしょう。
     警備巡回や入館ゲート設置などの措置もさることながら、日常的に行えて効果の期待できるリスク回避の手段として、利用者に対する「接遇」も挙げることができるのではないでしょうか。
     言動にどのように気を配る必要があるのか。またクレームなどの問題が発生した場合はどのように対応することで影響を最小限に止められるのか。接遇には利用者へ好印象を与えるだけでなく、「クレーム回避」「危機管理」といった面も併せ持ち、さらには工夫次第でマナー向上へも繋がる可能性があるということも言えるでしょう。そのための基礎として、利用者に不信感・不快感を与えない、常識ある言動=「図書館員としてのマナー」の必要性が改めて指摘できると思われます。
     次に利用率という点。秋田の公立国際教養大学の図書館は24時間開館ですが、深夜でも30人程度利用者がいるそうです。大学の学生数が654人なので利用率から言えば相当なものですが、この大学の授業が全て英語で、相当の自習が必要という理由がこの数字に結びついているとのことです2)
     このことから、利用率を向上させるためには図書館の努力だけでなく、利用に結びつくような教育が必要ということを再認識させられます。それと同時に学生が情報を得る手段についても、どのような変化が見られ、図書館利用にどのような影響を及ぼしているのかということを視野に入れたサービスのあり方を考えていくことが必要でしょう。
     情報入手の手段の変化について触れる場合、よく引き合いに出されるのはGoogleです。Google自体は学生のみならずライブラリアンも様々に活用しており、優れたツールであることに疑いはありません。しかしスピーディかつグローバルなサービス、特にGoogle bookのような書店や図書館の領域に迫るサービスをも展開していることは、ともすると図書館にとって「Google脅威論」になりがちです。提供している機能や学生の情報収集活動について分析しつつ、どのような部分でサービスの向上に活用できるか。図書館にしかない資源=マンパワーや印刷資料とどのように組み合わせていけば良いのか。「脅威」を解消し「共存」へ繋ぐ可能性を探るために、議論を深めていくことが必要です。
     サービス全般について言えば、単に利用率向上だけを目的としただけでは、問題点が現れやすいのではないでしょうか。本当に図書館でなければできないサービスなのか。図書館が行う必要性はどの程度あるのか。教育面、学内他部署との連携をどう取っていくのか。新しいサービスの開始には、意思決定のスピードだけでなく、このような点についてのきちんとした議論と合意形成が必要ということが言えると思います。
     また、一度開始したサービスであってもルーティンで継続するのであれば、他のサービスのチャンスを逃すことにも繋がりかねません。問題点を明確に整理することができ、あるいは代替措置が講じられるようであれば、サービスの改変・縮小も時には必要ではないでしょうか。

    1)富山新聞ホームページ: http://www.toyama.hokkoku.co.jp/subpage/H20090327105.htm 最終アクセス2009/4/3
    2)「大学の「24時間開放」続々 図書館・自習室・演習室・実験室…」 朝日新聞2008年10月20日付朝刊

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  7. 電子的サービス
  8. (1)図書館システム

     従来のパッケージ・システムに対する閉塞感から、近年、オープンソースを活用した図書館システム構築の動きが見られますが、国内でオープンソースによる図書館システムの設計、開発を行い、全国に普及を図るプロジェクトを展開する「Community for Developing Next Library(Project Next-L)」は、日本図書館協会情報システム研究会とともに、昨年11月の図書館総合展において、「公開仕様検討会」として、Next-Lプロトタイプシステムの概要と現状説明、デモを行うとともに、参加者には最新版のNext-Lプロトタイプシステムを配布しました。Project Next-Lの参加者・よびかけ人には大学図書館関係者も含まれ、今後の動きが注目されるところです。
     公共図書館では、三鷹市の第三セクターである「まちづくり三鷹」が昨年8月に開発した「Ruby図書館情報システム」を長野県塩尻市が1月に採用を決定し、話題となりました。本システムは、オープンソースであるRubyで開発された図書館業務の基幹パッケージシステムで、既存システムの半額という低コストの実現を特徴としています。2月に開催された福岡県とフクオカRuby大賞実行委員会が主催する「フクオカRuby大賞」においても優秀賞を受賞し、注目を集めていますが、大学図書館への対応は今のところ不明です。

    (2)電子ブック

     米Amazon.comが2月に同社の電子ブックリーダーの2代目となる「Kindle2」を発表、出荷を開始しました。初代モデルと比べ、機能が大幅に向上、本体サイズは約半分の薄さ、手にもちやすいようにデザインも改良されています。内蔵メモリも増え、電子書籍の保存が初代の200冊から1,500冊と大幅に向上し、バッテリー寿命も大幅に向上しています。ディスプレイサイズは6インチ(解像度が600×800ピクセル)、モノクロ16階調であることは変わっていませんが、ページ書き換え速度は20%高速になっています。テキストの音声読み上げ機能(Read-to-Me)も新たに登場しましたが、米国の作家権利擁護団体であるAuthors Guildが「Read-to-Meは新たな文献フォーマットを生み出しており、Amazon.comがライセンス契約を犯している」と表明したため、読み上げ機能無効化オプション提供へとシステム修正に動きました。米Amazon.comは「Kindle2」に加え、この夏販売開始予定で、「Kindle DX」も発表・予約受付を開始、最大の特徴は画面サイズで、「Kindle 2」の約2.5倍の9.7インチ(解像度1200×824ピクセル)。メモリ容量は3.3Gバイトで3,500冊以上の書籍を保存できるとしています。また加速度センサーによる画面回転機能が付き、PDFファイルにも対応しています。「Kindle DX」の大画面を生かし、教科書大手がコンテンツを提供、プリンストン大学、アリゾナ州立大学などが、この秋からの新年度に「Kindle DX」を学生に配布する計画ということです。
     米Googleは6月に出版社に対し、オンライン電子ブックの新たな販売方法を年末までに提供することを発表、出版社が任意のWeb対応デバイス向けに販売できるようにするとのことで、計画の詳細は明らかではありませんが、スマートフォンなどで電子ブックをダウンロードできるようになる見込みとのことです。
     Googleブック検索を巡る訴訟など毎年話題の多い米Google社ですが、デジタル化については、昨年9月に新聞社や出版社と提携し、過去の新聞記事をデジタル化し、オンライン上で検索・閲覧可能とするプロジェクトを開始しました。2006年に着手した“Google News Archive”を拡大したもので、新たなパートナー企業募集のほか、プロジェクトに関心のある新聞社・出版社の連絡を受け付けていて、ProQuest社などの参加が公表されています。最終目標は、あらゆる新聞の紙面にすべての人々がアクセスできるようにするということだ、ということです。

    (3)国立情報学研究所の動き

     2005年4月に公開された国立情報学研究所(Nii)のCiNiihttp://ci.nii.ac.jp/)が、2009年4月1日に 3回目のリニューアルを行いました。リニューアルのポイントに以下の3つが上げられています。
     1)ユーザビリティの向上を目的とした、ユーザインターフェイスの見直し
     2)システム連携の容易化を目的とした、APIの公開
     3)サービスの安定提供を目的とした、システム全体の見直し
     1)と3)によって利用が非常に快適になったと感じられます。2)については、具体的にはOpenSearch、RDFへの対応がなされています。また、6月12日に携帯電話向けCiNiiも公開しています。
     昨年10月22日に試験公開していた学術機関リポジトリポータルJAIROhttp://jairo.nii.ac.jp/)を2009年4月1日には正式公開し、GeNiihttp://ge.nii.ac.jp/)にも加えられました。IRDBコンテンツ分析システムにより、日本の学術機関リポジトリに関する詳細情報、コンテンツの統計分析情報もリアルタイムに見ることができるようになっています。NIIではこのリニューアルを記念して、CiNiiウェブAPIコンテストを開催中です。またKAKEN(科学研究費補助金(文部科学省および日本学術振興会)データベース,https://kaken.nii.ac.jp/)のリニューアルも行われています。
     連想情報科学研究開発センター(高野明彦センター長)による「想―IMAGINE Book Search―」(http://imagine.bookmap.info/index.jsp)は連想検索エンジンGETAを用いて、Webcat Plus、近代デジタルライブラリー(国会図書館)、古書じんぼう、ジュンク堂書店などの横断検索可能を提供していますが、2009年5月から、日本最大級の古書籍データベースである『日本の古書屋』を新たに加え、在庫580万冊の連想検索を可能としました。

    (4)国会図書館の動き

     国立国会図書館(NDL)は、昨年12月17日より雑誌記事索引新着情報のRSS配信サービスを開始しました。RSSはAPIとしても活用できるため、CiNiiのAPIと併用すれば、今後の図書館サイドの(あるいは図書館に限らず)活用如何によっては、大きな可能性を秘めていると言えます。2月24日からはNDL-OPACでの検索結果ダウンロードも可能となりました。検索結果一覧画面表示から、当該画面に表示されている書誌データをtsv(タブ区切りテキスト)形式でダウンロード可能で、画面表示同様に、20件、50件、100件、200件のうちから、選択可能となっています。
     3月には「電子書籍の流通・利用・保存に関する調査」の報告を『図書館調査研究リポート』No.11としてまとめ、公表しました(http://current.ndl.go.jp/files/report/no11/lis_rr_11_rev_20090313.pdf)。本調査は、大図研会員でもある湯浅俊彦・夙川学院短期大学准教授を中心とする研究会を組織し、近年急速に市場が拡大し、社会的な注目も高まっている電子書籍について、その流通・利用・保存の実態を図書館との関わりも視野に入れながら把握することを目的として実施されたもので、各種統計や歴史的経緯の分析に加え、出版社へのアンケート調査、電子書籍関連事業者(印刷、出版、携帯電話通信、コンテンツ作成・配信等)へのインタビュー調査、NDL職員を対象とした電子書籍利用に関するアンケート調査を行うことで、流通・利用・保存の現状と課題について、特に図書館との関わりに焦点を当てて取りまとめているとのことです。本調査研究終了にあわせて、3月9日にNDL東京本館で報告会を開催、NDL関西館にもテレビ中継を行い、両会場で図書館関係者、業界関係者など300名が参加したとのことです。

    (5)「Europeana」公開

     欧州連合加盟27か国の、1,000を超える国立図書館・文化機関等が提供している合計200万点以上の各種デジタルコンテンツ(書籍、地図、録音資料、写真、文書、絵画、映画など)へのアクセスを提供するポータルサイトの機能を果たす、欧州文化遺産のマルチメディア図書館として注目される中で、2008年11月20日に公開された欧州デジタル図書館「Europeana」(http://www.europeana.eu/)はアクセス殺到により、公開直後にダウン、一時サービスが中止という事態になりましたが、サーバー増強やピーク時のユーザー制限措置等を行い、2009年1月に再公開しました。加盟国の言語に対応したインターフェースが用意されています。

    (6)電子ジャーナル、オープン・アクセスに関する動き

     国立大学図書館協会学術情報委員会は、毎年値上がりを続ける電子ジャーナルの価格モデルの維持が困難になっていることから、購読契約の新たな枠組みの検討、サービスの質を落とすことなく、価格の上昇を抑えた価格モデルの構築を目指した大手3出版社(Elsevier、Springer、Wiley)との協議、中・長期的な視点から、3出版社との協議を行うとともに、新しい学術情報流通に関する新しいモデルの創出の検討を行うことを趣旨とした「合同電子ジャーナル・タスクフォース」(合同EJタスク)を2008年度に設置しました。合同EJタスクは、学術情報委員会、学術情報流通改革検討WGメンバー、電子ジャーナル・タスクフォースのメンバーから構成されており、学術情報委員会を構成する各大学の館長が中心となっています。3出版社への質問状(要望書)の送付、出版社との協議など活発な活動を行いましたが、出版社側から見れば、利益減につながる要望となるため、十分な成果が見られない状況です。学術情報委員会は、昨年5月に続いて、12月にこれに関連したシンポジウム「学術情報流通の改革を目指して〜電子ジャーナルが読めなくなる 2〜」を開催、学術情報委員会の取り組みや現状分析の報告、討議が行われました。
     昨年2月に「「電子ジャーナル」に関する要望」を文部科学省に提出した国立大学協会は、昨年10月に電子ジャーナルに関するアンケート調査を実施しており、電子ジャーナルに関する課題が国立大学全体の問題となっていることが伺えます。また、SCREAL(Standing Committee for Research on Academic Libraries,学術図書館研究委員会)が、「国立大学図書館協会電子ジャーナルタスクフォース、公私立大学図書館コンソーシアム、および各大学図書館と協力し、学術論文に関連する研究者および学生(大学院生)の情報利用行動に焦点をあて、研究者、学生がどのように論文を発見し、収集し、活用しているかを明らかにし、それによって、電子ジャーナルの普及やインターネット上の情報資源の充実といった学術情報の利用環境の変化が研究者や学生の情報需要、および大学図書館に対する期待と要求に具体的にどのような影響を与えているかを明らかにすること」を目的とした2007年の調査「学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用度に関する調査(電子ジャーナル等の利用動向に関する調査2007)」の結果を昨年12月に公表しました(http://www.screal.org/apache2-default/Publications/SCREAL_REPORT_jpn8.pdf)。結果の概要http://www.screal.org/apache2-default/Publications/122408SCREAL_outline_in_Japanese.pdf)によれば、化学、生物学、医歯薬学の分野では、半数以上が電子ジャーナルを「ほぼ毎日」利用、自然科学系全般では9割以上の回答者が電子ジャーナルを「月1回以上利用」となっており、人文社会系における電子ジャーナルの浸透度は自然科学系ほどではないものの、過去(2001年、2003年)の国立大学の調査よりも大幅に伸びており、順調に浸透しているとのことで、「電子ジャーナルなしではわが国の学術研究は成り立たない」と結論づけています。
     国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)は、昨今の世界的な未曾有の経済危機がコンソーシアム契約に与える影響が深刻であることから、「Statement on the Global Economic Crisis and Its Impact on Consortial Licenses(世界的経済危機とそのコンソーシアムに与える影響に関する声明)」(http://www.library.yale.edu/consortia/icolc-econcrisis-0109.htm)を2009年1月に公表、今後、図書館・出版者がどのようなアプローチを取ることが考えられるかを提言しています。同声明に対しては全世界からおよそ100のコンソーシアムが支持を表明しています(大半は米国)。なお日本は今のところ支持を表明していません。北米研究図書館協会(ARL)も2月に、ICOLCの提言の一部を強化し、研究図書館の視点からの観察・勧告を加えた「The Global Economic Crisis and Its Effect on Publishing and Library Subscriptions: ARL Issues Statement to Scholarly Publishers and Vendors(世界的経済危機と出版と図書館の購読に対する影響:学術出版社とベンダーへのARLの声明)」(http://www.arl.org/news/pr/econ-crisis-19feb09.shtml)を発表しています。また、英国では米ドルとユーロに対するポンドの暴落が、大学図書館による電子ジャーナルの契約に特に深刻な影響を与えていることが報じられてるとのことです。
     SPARC、PLoS、Students for Free Culture(知的財産・情報通信技術政策ににおける公共の利益を追求する活動をおこなっている学生組織)の3団体の呼びかけにより、昨年10月14日、世界規模のイベント「オープンアクセスの日」(http://openaccessday.org/)が開催されました。オープンアクセスの認知度・理解を広め、その意義を伝えることを目的としています。世界28か国・地域で関連イベントが開催され、日本でも、SPARC Japanが、Open Access Day 特別セミナー「日本における最適なオープンアクセスとは何か?」を開催しました(http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2008/20081014.html)。
     実践女子大学図書館・短期大学図書館による日本のオープンアクセス学術雑誌データベースDOAJJ(Directory of Open Access Journals in Japan,http://jcross.jissen.ac.jp/atoz/index.html)が昨年7月に公開され、12月に「大図研ワンディセミナー」(大図研京都支部主催)でも取り上げられるなど、大きな話題となりました。2008年10月現在の収録内容は約11,827誌、雑誌タイトル、キーワード、ISSNで検索できるほか、提供者別リストと学術機関リポジトリのリストも提供しています。2009年に予定されている国立情報学研究所の「次世代目録所在情報サービス」が稼働するまでの限定公開としていますが、MAGAZINEPLUSが無料オプションとしてDOAJJとの連携サービスを開始し、双方で同じISSNを持つ雑誌(4月現在で約3,800誌)のリンクを可能とするなど、商用サービスでの活用も始まっています。

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  9. 機関リポジトリ
  10.  機関リポジトリに関する2008年〜2009年にかけての主な動向としては、NIIの次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業(CSI事業)、デジタルリポジトリ連合(DRF)の活動、世界のリポジトリランキングの公表等を挙げることができます。
     国立情報学研究所(NII)は、大学等と連携し「最先端学術情報基盤整備(CSI)」の一環として、機関リポジトリの構築、連携の促進に取り組んでいます。2005年度から2007年度にかけて、次世代学術コンテンツ基盤共同構築に向けた第1期委託事業を実施しました。この第1期委託事業は、2008年12月に報告書「学術コミュニケーションの新たな地平;学術機関リポジトリ構築連携支援事業第1期報告書」として発行されました。また、CSIに加えてNIIでは、NIIで電子化した紀要コンテンツの提供といったコンテンツ拡充、ダブリン・コアを論文用に拡張したメタデータフォーマットjunii2の策定といったシステム連携、機関リポジトリ担当者向け研修などのコミュニティ形成の事業も行っています。
     CSI事業は2008年度から2009年度にかけて、機関リポジトリの更なる普及とコンテンツの拡充及びリポジトリ相互の連携による新たなサービスの構築をめざして、第2期に入りました。2008年度のCSI事業は、領域1「機関リポジトリの普及とコンテンツの拡充」と領域2「研究教育活動を活性化するための機関リポジトリの相互連携による新たなサービス構築及び機関リポジトリの利便性向上に資するための調査・研究・開発」にわかれています。委託先は、領域1と領域2を合わせて72大学となっています。
     領域1では、単独機関リポジトリと複数機関の共同リポジトリが対象となり、大学等の学術機関で生み出された学術的価値を有するコンテンツの中でも、特に「学術雑誌論文のほかに、これまでに電子的形態での蓄積・流通が遅れていた学位論文、科学研究費補助金・COE・特色GPなどの助成金による研究成果報告書(付随する研究データ等含む)、テクニカルレポート、紀要論文など、学術機関ならではの特徴を持つもの」を重点コンテンツとして指定しています3)。また、領域2では、「発信力強化のための技術開発」(7プロジェクト)、「複数のリポジトリの連携」(4プロジェクト)、「機関リポジトリの持続性の確保や価値の向上に関する研究」(9プロジェクト)、「eサイエンスと機関リポジトリの連携の可能性についての調査・研究」(1プロジェクト)の4つの研究テーマの下に、21のプロジェクトが設けられました。
     新規の領域が動き始めた一方で、2006年度〜2007年度のCSI事業の領域2の活動の一つである、デジタルリポジトリ連合(DRF)による、第4回DRFワークショップ「日本の機関リポジトリとそのテーマ2008」(国公私立大学図書館協力委員会共催)が2008年11月の第10回図書館総合展にて開催されました。このワークショップで、「リポジトリを担う人材育成」、「デジタル時代の文献デリバリー」、「デジタル時代の学術情報流通と著作権」、「学位論文ネットワーク形成を目指して」の4セッションの検討を経て、今後の機関リポジトリの持続的展開の要点の合意がなされました(横浜合意)。「学位論文ネットワークの形成を目指して」のセクションでは、「学位論文のメタデータ標準案」の提案もされています。
     また、NIIは学術機関リポジトリポータルJAIRO(Japanese Institutional Repositories Online)を2009年4月に正式に公開しました。JAIROは、日本の学術機関リポジトリに蓄積された学術情報(学術雑誌論文、学位論文、研究紀要、研究報告書等)を横断的に検索できるサービスで、JuNii+(試験公開版)の後継にあたり、平成21年3月末現在で、89機関リポジトリ、約60万件のコンテンツが検索可能です。5月には機械翻訳の機能も追加されました。
     海外に目を向けると、世界のリポジトリランキングを発表しているWebometrics Ranking of World Universitiesが、2009年1月に最新ランキングを発表しました。ランキングによると、1位は2008年に引き続き物理学分野を中心としたプレプリントサーバであるarXiv、2位は社会科学分野のSSRN(Social Science Research Network)、3位はフランスの国立科学研究院(CNRS)等が中心に構築したオープンアクセスリポジトリであるHALとなっています。日本は、37位に九州大学、43位に京都大学、88位に早稲田大学、108位に東京大学、116位に名古屋大学、123位に北海道大学、132位に長崎大学、153位に千葉大学、159位に同志社大学などがランキング入りしています。2009年版からは機関リポジトリに限定したランキングも発表されています。限定ランキングでは、1位がHAL、2位がマサチューセッツ工科大学(MIT)のDSpace(全ランキングでは5位)となっています。また、国内で刊行された『大学ランキング2010』(朝日新聞社,2009)では、初めて「機関リポジトリランキング」が掲載されました。
     最後に、NIIのCSI事業も第2期に入り、リポジトリの構築や開発を主眼に置いていた第1期に比べると、リポジトリの普及、コンテンツの拡充、新たなサービス構築など基礎・基盤から利活用の段階へとシフトしつつあります。機関リポジトリの導入は国立大学を中心に進んできていますが、CSI事業にも私立大学の機関リポジトリの採択が増えるなど、今後は私立大学の動向も注目されます。

    【引用文献】
    3)国立情報学研究所「次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業 学術機関リポジトリ構築連携支援事業 平成20-21年度委託事業公募要項」2008年1月,p.2. [Accessed: 2009年5月28日]
    【参考文献】
    国立情報学研究所「学術コミュニケーションの新たな地平:学術機関リポジトリ構築連携支援事業第1期報告書」2008年12月.
    【参考ホームページ】
    学術機関リポジトリ構築連携支援事業」 http://www.nii.ac.jp/irp/ [Accessed: 2009年5月20日]
    Digital Repository Federation」 http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/ [Accessed: 2009年5月15日]
    Open Access Japan」 http://www.openaccessjapan.com/ [Accessed: 2009年5月15日]
    World Universities' ranking」 http://www.webometrics.info/ [Accessed: 2009年5月15日]

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  11. 組織運営
  12. (1)業務委託をめぐる状況

     日本図書館協会メールマガジン450号(2009年4月15日配信)では、厚生労働省が3月31日に発表した「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に係る疑義応答集」を紹介しています(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai03.pdf)。
     ここではたとえば、「請負事業主の管理責任者が作業者を兼任する場合、管理責任者が不在になる場合も発生しますが、請負業務として問題がありますか」との問いに対して、「請負作業場に、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合、実態的には発注者から管理責任者への注文が、発注者から請負労働者への指揮命令となることから、偽装請負と判断されることになります」という見解が示されています。
     日本社会における派遣労働者の数(=全労働者に占める派遣労働者の割合)は増加し続けています。大学を含む企業・団体が行う業務委託は、主に業務を行う職場とは直接の雇用関係がない派遣労働者によって担われています。派遣労働、業務委託の規模が拡大することによって、その運用のための法令遵守という要請が強まってきています。このことは、米国発世界同時不況が深刻になる中で、労働者、とりわけ立場の弱い派遣労働者に対する、いわゆる「派遣切り」の実態が明らかになるにつれ、労働者保護、労働再規制の動きが強まったことにより加速されてきているように見受けられます。
     特定非営利活動法人「派遣労働ネットワーク」では、派遣労働者の実態調査を2年ごとに行っていますが、2008年度調査のダイジェスト版が公開されています(http://haken-net.or.jp/modules/tinyd4/content/hsen_2008.pdf)。これを見ると、派遣労働者の平均時給は年々下がっており(1994年が1,704円であるのに対し、2004年は1,430円、2008年は1,288円)、一方で年収は2006年が平均229万8,252円であったのに対し、2008年は239万0,689円と上昇しています。この理由ははっきりとはしませんが、ひとつには1人当たりの労働時間の長時間化があったということが推測できます。
     大学図書館問題研究会の2009年関東5支部新春合同例会では、この業務委託に関する法的規定の理解を図ることを目的に、専門家による講演が行われました(「アウトソーシングの法律問題―大学の動向に即して」今給黎泰弘(いまぎれ・やすひろ)氏(弁護士)2009年1月24日(土) なおこの講演録は「大図研シリーズ」の一冊として刊行予定)。
     私立大学図書館を中心に、図書館業務の委託は進んでいます。国立大学図書館関係者の集まりでも、財政状況が厳しくなる中で、業務委託は避けられない、といった論調の意見を聞きます。しかし、その語調にはある種の安易さを感じることも事実です。業務委託を考え、論ずるときには、それが上で述べたような労働問題としての側面を持っているということを正しく認識する必要があるのではないでしょうか。

    (2)図書館員をめぐる状況

     『情報の科学と技術』の2009年2月号は、「図書館員に求められる資質とキャリア形成」という特集を組んでいます。特集のまえがきでは、「本人の成長への意思がないところでは、どんな研修も環境もその意味を減じてしまうのではないかという問題意識から、従来の育成、つまり「育てる」という観点ではなく、人が「育っていく」には?という観点から」この特集を組んだということが述べられています。以下、ここに掲載された2つの論考を紹介しておきます。

    ■呑海沙織「図書館コミュニティにおける自発的キャリア形成」
     この論考で呑海氏は、「図書館コミュニティにおける自発的キャリア形成の特徴について」考察し、その事例として、大学図書館問題研究会(以下、「大図研」)を取り上げています。大図研の概要、発足の経緯と背景、主要な活動が紹介され、そうした場が図書館員のキャリア形成との関係でどういった役割をはたしているかが述べられています。
     氏は、コミュニティへのかかわり方について、参加することそれ自体がまず「自発的・能動的行為」であること、また大図研の場合は、資格取得などという明確な目標がなく、事情に応じていつでもやめられるといったことがあるためより高いモチベーションが必要であること、ただし、参加のスタイルは、会誌を受け取るだけといったレベルから、会の運営に参加するといったより能動的なレベルが存在しており、長い職業生活の中で、継続的にキャリア形成を行うには、その時々のライフステージにおいて「関与の程度」を選べることが必要だとしています。大図研の場合は、参加するにあたって、その参入障壁をより低くしているものとして支部活動があり(地理的、心理的により近い場所での参加が可能になる)、その支部活動に積極的に参加することは、たとえば例会の企画、運営に参加することで、そうした能力を高めることが可能になるといった果実を得ることができるとしています。さらに、コミュニティへの参加はキャリア形成の場であると同時にコミュニティを維持しているということでもあり、その両者があることが個人とコミュニティ双方にとってのメリットだとしています。

    ■畠山珠美「社会人大学院の意義―2年間の大学院生活を振り返って」
     この論考の中で畠山氏は、自身の職業経歴と図書館情報学大学院(慶應義塾大学)に進学することになった経緯、そこでのカリキュラム、成果、といったことについて具体的に述べています。

     畠山氏は、大学院生活を送ることで得られたもののひとつとして、大学院で培った人間関係を挙げています。呑海氏もコミュニティに参加することは対人関係の面でメンタリング(知識・経験の豊富な人がそうでない人に対して一定期間継続して助言や対話を行うことによって人材育成を行うこと。ただし「教育」を行うのではなく、助言や対話を行うことによって、育成される側(「メンティ」)の自発的・自立的発達をうながすところに特徴がある。)を可能にすることでもあるとしています。
     自発的なキャリア形成を行うことのメリットはさまざまにあると考えられますが、この2つの論考がいずれも人的交流が豊富になることを挙げている点は興味深いことです。大図研の活動に積極的に参加している方は、この点について強く首肯されるのではないでしょうか。

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  13. 出版・流通
  14.  同じことを何年も書きたくはないと思うのですがいかんせん、数字は正直?です。2008年の出版物売上は3.2%減の2兆177億円でそのうち書籍は1.6%減の8,878億円、雑誌が4.5%減の1兆1,299億円でした(出版科学研究所による)。1996年来の長期低落傾向は08年も続いたのですが特徴的なのは雑誌の落ち込みぶりです。08年に休刊になったタイトルが『月刊現代』や『論座』など総合誌から『主婦の友』といった女性誌、マンガもあれば男性誌もあるといった具合にまんべんなく出てきたのは部数の落ち込み以外にも広告収入の激減があったからだと思われます。世の中の景気が反映されているのです。もちろん返品率は40%近くの高止まり、書店の数も毎年1,000軒ずつ減っていると言われている状態です。出版社トップの講談社も赤字ですし、恒常的な危機の中にあると言っていいと思います。その中で変革の兆しはまだありません。再販制と委託制がセットになった出版物販売の現行システムは相当に疲れきっていると思われます。いくつかの小さな試みは行われています。「責任販売制」での出版を大手出版社で試みています。いくつかの取次は業務提携を模索しています。書店の仕入れの協業化もあります。が、全体として大きな動きにはなっていません。その中で隣の業界(印刷)の大手、大日本印刷が丸善とジュンク堂、TRCを手に入れて何をするのかがちょっと気になるところです。
     トピックとしては新書ブームが続いており、新たに参入する出版社もあること、マンガまで複数でた『蟹工船』ブーム、新潮社の朝日新聞襲撃事件の誤報、最近ではサンクチュアリ・パブリッシングの盗用での『最後のパレード』回収がありました。ケータイ小説本は一過性のブームに終わりましたが電子書籍端末のKindle(Amazon)はIIが出てアメリカでは進化していけそうです。日本はケータイだけの世界になるのでしょうか。
     最後にGoogleのブック検索訴訟和解関連の動きも気をつけなければいけません。著作権の問題ですが今後の書籍流通の革新を促すきっかけになることは間違いありません。

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  15. 著作権・法制度
  16.  ここでは、2008年から2009年にかけての著作権・法制度に関する動きを、(1)著作権、(2)図書館法改正、(3)デジタル情報利用の3項目を中心に振り返ります。

    8-1 著作権に関する動き

     「著作権法の一部を改正する法律案」が政府によりまとめられ、2009年3月10日、第171回国会に提出されました。
     改正案の柱は、①インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置、②違法な著作物の流通抑止、③障害者の情報利用の機会の確保の3つであり、2010年1月の施行が目標となっています。
     大学図書館と関係の深い改正内容として、視覚障害者向け録音図書作成可能な施設の公共図書館等への拡大や、聴覚障害者のために映画や放送番組への字幕や手話の付与、国立国会図書館における必要限度範囲の原本の電磁的記録などを権利者に無許諾で可能とすると規定している点が挙げられます(http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/171/1251917.htm)。

    8-2 図書館法改正に関する動き

     改正図書館法を含む社会教育法等の一部を改正する法律が2008年6月11日に公布されました。
     「司書及び司書補」に関する規定では、「司書になる資格を有する」ものについて、旧法では「司書の講習を修了したもの」「大学で図書館に関する科目を履修したもの」と規定されていた部分が、順序が入れ替わり、「大学において文部科学省令で定める図書館に関する科目を履修したもの」、「司書の講習を修了したもの」となりました。また司書補になる資格について、高等学校卒業者のほか、大学入学資格を有する者に拡大されています。そのほか、現職者に対する資質向上のための研修の努力規定が新たに設けられたほか、「図書館資料」の収集対象として「電磁的記録」が明文化されました(http://current.ndl.go.jp/e799)。
     また、文部科学省による図書館法改正に基づく司書養成科目の改正の説明会も2009年6月に予定されております(http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/gakugei/shisyo/1260970.htm)。

    8-3 デジタル情報利用に関する動き

    (1)Googleブック検索への国内出版界の対応

     Googleブック検索http://books.google.com/)は、Google社により進められているサービスで、書籍をスキャンによりデジタル化することによって、本文の検索を可能とするものです。
     Googleブック検索に対しては、必要な書籍を発見する機会を増やすサービスとして利用されている一方、著作者、出版社の関係者から、著作権保護や書籍販売への影響を苦慮する声も聞かれます。米国では、2005年から、著作者団体(Authors Guild)と米国出版社協会(Association of American Publishers:AAP)が、Googleブック検索は著作権侵害に当たるとしてGoogle社を訴えていましたが、2008年10月に和解案への合意に達したとのことです。 この和解の効力及びサービスの利用対象者が米国内に限定されるものの、和解の当事者(和解集団)には日本で出版された書籍等の権利者が含まれることから、Google社は、日本国内に対しても和解文書http://www.googlebooksettlement.com/)を提示し、和解からの除外表明の期限を5月5日(後に9月4日に延長)としています。2月24日の朝日新聞と読売新聞の朝刊広告欄に、Google社による「法定通知」もあり、和解案受け入れについて、日本国内で大きな反響がありました。日本文藝家協会http://www.bungeika.or.jp/pdf/statement_for_google.pdf)は4月に和解案に抗議する声明を発表したものの、来日した全米作家協会や全米出版社協会の担当者らと意見交換し、日本で刊行中の書籍は除外されるという説明を受けたとのことから、和解案を受け入れる考えを明らかにしたと報じられていますが、日本ペンクラブhttp://www.japanpen.or.jp/statement/2008-2009/post_134.html)、日本出版社著作権協会(http://www.e-jpca.com/ の新着情報2009/04/07)、日本ビジュアル著作権協会http://www.jvca.gr.jp/tokushu/google09.html)、出版流通対策協議会http://www.jvca.gr.jp/tokushu/google09.html)、日本漫画家協会(http://www.nihonmangakakyokai.or.jp/news.php?tbl=information の2009年5月28日)は和解案を拒否すると発表し、和解案受け入れについては賛否それぞれで、今後の動きが注目されるところです。

    (2)「知的財産推進計画2008」

     内閣の知的財産戦略本部により、「知的財産推進計画2008(平成20年6月18日)」(http://www.ipr.go.jp/sokuhou/2008keikaku.pdf)が発表されました。この計画では、特許・論文情報統合検索システムの利便性向上、インターネット上の違法コンテンツの排除、クリエイティブコモンズやオープンソースソフトウェアの活用、サーバ上のデータ一時蓄積等に係る法的課題の解決、国立国会図書館のデジタルアーカイブ化とその資料提供の促進など、大学図書館に関係する施策も含まれています(http://current.ndl.go.jp/e805)。

    (3)「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)」

     知的財産戦略本部に設置された「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」による「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)(平成20年11月27日)」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/houkoku/081127digital.pdf)では、「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」をテーマとして取り上げられており、権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば許諾なしに著作物を利用できるようにする規定を設けることについて検討がなされています。

    8-4 その他

     デジタル情報利用に関しては、総務省によって設置された「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」から「最終取りまとめ(平成21年1月)」(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2009/090116_1.html)が公表されたことも挙げられます。ここには、家庭・地域・学校における情報モラル教育についても触れられています。
     法制度の話題としては、2008年11月の元厚生事務次官等の殺傷事件の際、被疑者が国立国会図書館において被害者の住所を調べたというマスコミ報道がなされた後、各図書館において名簿利用の公開について検討をせまられたことも挙げられます。これに関して、日本図書館協会(JLA)は2008年12月付けで、「名簿等の利用規制について」という文書を公表しています(http://www.jla.or.jp/kenkai/200812b.pdf)。

     以上、大学図書館に関連した著作権・法制度に関する動きを振り返りました。デジタル情報の普及に影響を受けていることが1つの傾向と思われます。大学図書館職員には、社会や情報技術の動きに対応した業務を進めるための資質や能力が求められています。2008年6月に、文部科学省から、「図書館職員の研修の充実方策について」という報告が出されましたが(http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/teigen/08073040.htm)、今後、図書館職員の資質や能力の向上のための研修のあり方に関する制度も変化していくことも考えられます。

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