お薦めの1冊 場合によっては2冊、3冊♪ |
2.人質の朗読会 小川洋子 中央公論社 2011.2
地球の裏側のある異国の村で、日本人観光客ら八人が乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃され、そのまま拉致されてしまう。数ヶ月間の膠着状態が続いた事件は、人々の関心も薄れ始めたころ、犯人がしかけたダイナマイトの爆発によって人質全員が死亡してしまうことで幕を閉じるが、二年後、思わぬ形で人々に注目されることになる。現地の特殊部隊によって小屋にしかけられていた盗聴器に、人質達の朗読の声が残されていたのだ。
8人の人質たちがお互いに語り合う「自分の日常に起こったエピソード」8編プラス1編の話には、本当にあってもおかしくない話もあれば、「ありえない体験」もある。
にもかかわらず、彼らの物語は、みんな魅力的で、力強く希望に満ちている。そして、全員死亡したという前提があるせいか少しせつない。
なんでもない日常が本当は一番輝いている、毎日を静かに、丁寧に、ゆっくり生きていこう。
そんな風に思わせる小川洋子らしい不思議な温かみのある1冊である。
おもな内容は
1.風変わりな隣人に台所を貸すことになった少年時代のある一日を描いた「コンソメスープ名人」
2.少年時代に出会った鉄工所の作業員との思い出を語る「杖」
3.菓子工場に勤める女性と大家の老婆との不思議な交流物語「やまびこビスケット」
4.死者を弔う儀式のような忘れ得ぬ光景の「槍投げの青年」など