討議資料は、全国大会を開催するにあたり、最近の大学図書館の諸問題について、常任委員会でまとめたものです。これを参考に分散会や全体会において、活発な議論が行われることを願っております。 例年全国大会は8月の後半に開催されていますが、今年は8月前半(8月5-7日)に開催します。これは、8月20-24日に隣国である韓国でIFLAの第72回大会が行われることに配慮したものです。国際ILLなど、国際協力が重要となってくる昨今、会員の中でも参加する方がおられるのではないでしょうか。IFLA大会については、日本図書館協会(http://www.jla.or.jp/)でも案内を行っています。
大学をめぐる状況は、厳しくなる一方です。
まず、国立大の法人化に伴う経費削減(効率化係数1%)の問題があります。今年3月に出された、科学技術・学術審議会報告の『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』の中でも、大学図書館での財政基盤の不安定さが指摘されています。そんな状況の中で、紙媒体・電子ジャーナル等すべてを含めての体系的・安定的な収集が必要とされています。その他にこの報告では、保存体制の問題、電子化対応の遅れ、目録データの品質低下、図書館員の主題知識・専門知識等を持った図書館員の不足、リテラシー教育の位置づけの不明確さなどの問題を挙げています。
資料価格の高騰は止まらず、資料の収集は困難さを増しますが、それだけでなく、流通の仕組みにも変化が起こっています。ISBNの13桁化、ICタグ技術の動向などについては、それを受入業務等の効率化だけでなく、学術情報の永続的な管理・流通に生かせるよう、常日頃目を配っておく必要があります。
我々が図書館資料の流通の基礎としている目録情報についても、その質の低下が言われるようになりました。共同目録だけでなく、共同でのデータベース品質管理などの視点がますます重要となってきます。電子資料の流通についての仕組みも不十分と思われる中、学術情報全体の流通・蓄積のための組織化について、常に考えていかなければならないでしょう。
大学の地域開放も進み、利用者も、そのニーズも多様化してゆきます。その流れの中でさらに高度な、専門知識・主題知識が必要となってゆきます。リテラシー教育も教員との連携、新学習指導要領により学んだ学生への対応など課題は増えてゆきます。限られた資源で、開館時間の拡大などサービスの強化が求められる状況が続いております。その他方で、サービスを提供する上での危機管理が求められ、JLAでも「こんなときどうするの?」というタイトルで、危機管理マニュアル作成の手引きを作成しています。天災だけでなく人災についても問題視されており、大図研でも研究会を開いております(11月群馬、人的対応中心。大会でも危機管理をテーマに分科会を開催予定です)。
電子情報のサービスについても、多様化しています。オンライン書店 amazonの「なか見!検索」や、Yahoo、Google
などの検索サービスの展開も目が離せず、図書館でも電子的サービスを検討するとともに、これらのサービスとの関係を考えていかなければなりません。また、日本の19の大学で、機関リポジトリのサービスが開始されました。これは電子的な公開手段を利用者に提供するものです。新しいサービスとして、事業の学内での位置づけなど多くのことを検討していかなければなりません。
これらの業務を遂行してゆくために、我々は情報収集や職場での実践の交流をはかってゆかなければなりません。しかし、図書館だけでなく、社会全体において非常勤職員の増加について問題となってきていると言われています。その中で、図書館に働くものが働きやすく、自分の専門性を磨いてゆける職場を作るにはどうしたらよいのでしょうか。職員だけでなく、他の部局、関連業者、利用者も交えて、広く議論を行っていかなければならないのではないでしょうか。
また、組織的な面では、「国会事務局等改革に関する提言」の中で、国立国会図書館の法人化についての提言が行われ、JLAが見解を出すということがありました。我々の業務においても国立国会図書館によるところは大きいです。国内のさらには国際的な協力体制が必要となってくる中、その動向からも目が離せません。
さらには、図書館界を取り巻く法制度について、著作権・個人情報の扱いなどにも注意が必要です。
昨年は、文部科学省の平成17年度大学図書館実態調査が、調査方法等の見直しを検討するため遅延した(というか実施されていない?)ということもあります。大学法人化など、大きな制度面での変革の中で、我々も自分たちの業務を見直して行く必要があるでしょう。
2004年に盛り返したかに見えた出版関連の売上げは2005年にはまたも低迷しました。1996年の売上げ高をもう超えることがないのではないかと思わせるような業界の雰囲気です。
その中で健闘しているのがホームページやブログから作られた本です。「電車男」が出たのは2004年ですが、2005年末に出た「生協の白石さん」はすでに百万部を超えています。最近よく出ている内田樹氏の本のいくつかはブログから作られたように思われますし、「真鍋かをりのココだけの話」「古田のブログ」などの有名人から「実録鬼嫁日記」などさまざまな本が刊行されています。これからもインターネット発の本は増えていくと思われます。しばらくは電子媒体と紙媒体の共存状態が続くのでしょうか。
電子媒体の方はと言うと、電子書籍が着実に成長しているようです。専用端末の「リブリエ」「シグマブック」は奮いませんが、ケータイでの読書はマンガまで参入するほどの活発さがあります。インターネット書店は筆頭のamazon.co.jpの売上げ高が不明なため正確にはわかりませんが全体の金額が増えているのは確実です。
ただ、売上げが下位のところは手を引くのではないかと考えられるほど競争は厳しくなっているようです。
再販制の弾力運用に関していくつかの動きがありました。
日書連の会長が交代し、ポイントサービスを認めない考え方から公取委の指摘を受けて変わらざるを得なくなったということがあります。
インターネット上での値引き販売や、「ブックハウス神保町」での値引き販売常設化など弾力運用はせざるを得なければならなくなっているようです。このほかにも「トーハン桶川SCMセンター」の稼働、「文字活字文化振興法」の成立、住宅情報誌・就職情報誌や「R25」などのフリーペーパーの飛躍的増大などこれからの出版流通業界に影響を及ぼす可能性のあることも出てきています。
この1年はNACSIS-CAT/ILLの諸課題を解決するために,大学図書館界と国立情報学研究所との協力による取り組みが大きく進んだ1年と言えます。「平成16年度第1回国公私立大学図書館協力委員会と国立情報学研究所(以下,NII)の業務連絡会」において設置された「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト」
(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_kadaiPT.html)の活動は,「国公私立大学図書館協力委員会シンポジウム」(平成
17年10月開催)でも,プロジェクト・メンバーの一人である米澤氏から報告されています(『大学図書館研究』第76号(2006.3)参照)が,このプロジェクトは,NACSIS-CATを世
界に誇れるCJK書誌ユーティリティとして発展させるため,「重複書誌レコードの頻発に
代表される図書ファイルの品質低下」「雑誌所蔵データ未更新による雑誌ファイルの品質低下」「ILL謝絶率の上昇等によるILLサービスの品質低下」といった課題について,現実
の業務内容に基づく業務分析と具体的な解決策を検討することを目的として,平成16年度に設置されたもので,昨年4月には中間報告,10月には最終報告を発表しました。
昨年4月の中間報告(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_kadaiPT-interim-report.pdf)では,「6.現状課題低減化のための応急策検討の提案」で出された6項目(「(1)NACSIS-CAT/ILL運用ガイドライン」「(2)外注のための仕様書モデルの提示」「(3)研修の強化と資格・認定制度の提案」「(4)図書書誌レコード調整方式の改善」「(5)雑誌所蔵更新への強制力」「(6)図書館評価のための基礎的数値の開示」)に対して,NIIは「NIIアクションプラン」を策定し,最終報告書(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_kadaiPT-last-report.pdf)で,具体的な展開を提示しています。平成18年3月末現在の「NIIアクションプラン」の実施状況は,「(1)目録所在情報サービスを対象とする講習会等に関する検討ワーキング・グループの設置」「(2)NACSIS-CATレコード調整方式検討ワーキング・グループの設置」「(3)全国雑誌所蔵データ更新作業の実施」「(4)平成
16年度NACSIS-CAT/ILL業務分析表の送付」の4点について,『NACSIS-CAT/ILLニュースレター』17号(2006.3.31)で報告されています。
(1)目録所在情報サービスを対象とする講習会等に関する検討ワーキング・グループの設置
NIIの図書館情報委員会の下に設置され,現行のNACSIS-CAT/ILLの講習会・研修の内容と実施方法を見直し・強化するとともに,データ作成(外注業者等も含む)に対して資格・認定を与えて品質を維持する制度を目的とするワーキングで,平成17年度は,平成18年度実施の講習会に取り入れるべき改善点の検討(到達度確認テスト),及び18年度に継
続検討する課題とその枠組みについての検討(海外書誌ユーティリティとの比較,e-learningの活用,地域活動との連携,資格認定制度,目録担当者のコンピテンシー)を行
い,その結果は中間報告書としてまとめられています(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_WG_edu.html)。
(2)NACSIS-CATレコード調整方式検討ワーキンググループの設置
(1)のワーキングと同様に図書情報委員会の下に設置された,レコード作成館にかかる
責任・負担が大きい現行のNACSIS-CAT図書レコード調整方式を見直し,新しいレコード調整方式を検討することを目的とするワーキングで,総合目録データベースの品質管理・維持のためには,書誌レコード作成時の質を向上させることに加え,レコード調整作業自体は必要なものであることを再確認した上で,調整に係る事務作業効率化を図るための応急的な対応策(参加組織情報への連絡先情報の記入必須化,修正後の所蔵館連絡のNII代行範囲の拡大,レコード調整用表示フォーマットの提示,コーディングマニュアル「21.1
図書書誌レコード修正事項一覧」の見直し,NOTEフィールドへの運用注記の記入)を検討, 報告書(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_WG_record_report.pdf)では,課題解決に向けて,「書誌レコード作成時の品質維持」「コーディングマニュアルの改訂」「重複レコードの容認」「システムの整備」「NACSIS-CATの新しいビジョン」について,改善策があげられています。
(3)全国雑誌所蔵データ更新作業の実施
『学術雑誌総合目録』の冊子体がなくなり,雑誌所蔵データ更新の実質的な強制力が働
かなくなったため,それに代わるものとして,「全国雑誌所蔵データ更新作業」(所蔵更新キャンペーン)を開始,本年4〜9月をデータ更新作業期間としています(更新作業についてはhttp://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_sholdupdate.htmlを参照)。
(4)平成16年度NACSIS-CAT/ILL業務分析表の送付
各機関における平成16年度のNACSIS-CAT/ILLのデータをもとに業務分析を行った結果を,平成17年11月に「平成16年度NACSIS-CAT/ILL業務分析表」として配布(希望する機関には電子データも提供),「図書館評価のための基礎的数値の開示」として,今後も業務分析表を作成・配布する予定です。
なお,平成17年度未着手のプランは平成18年度に行う予定とのことです。
平成17年10月19日に,総合目録データベース図書所蔵レコードの登録件数が8,000万件を突破,登録開始から20年4ヶ月,7,000万件から1年11ヶ月での達成ということです。
平成17年度の遡及入力事業は,当初の38機関39機関(入力予定254,620冊)に加え,12月には14機関14件(入力予定43,515冊)が追加されました。事業の一つである「自動登録システム実証実験」には,筑波大,一橋大,福山大,国立民族学博物館(民博)の4機関が参加しました。この実証実験は,和書・洋書など種々の遡及資料に対して,日本電気株式会社製「NC-Auto
Version 2」を用いて,自動登録及び半自動登録の有効性の検証を行 い,成果を参加機関共同のレポートにて公開することを目的とするもので,報告書(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/manuals/ncauto2_2005.pdf)によれば,結果は下記のとおりですが,メリット・デメリットがそれぞれあり,評価については様々です。平成18年度は7機関7件の参加が予定されています。
|
作業対象件数 |
登録件数 |
書誌ヒット数 |
(率) |
筑波大 |
22,650 |
19,785 |
19,717 |
(87.1%) |
一橋大 |
10,000 |
6,135 |
6,135 |
(61%) |
福山大 |
5,000 |
5,000 |
4,254 |
(85%) |
民 博 |
3,200 |
3,161 |
1,580 |
(49%) |
平成18年度の遡及入力事業は37機関57件の採択が内定しましたが,多言語対応では,従来の中国語,韓国・朝鮮語,アラビア文字資料に続き,タイ語資料とデーヴァナーガリー文字資料(サンスクリット語,ヒンディー語),人文社会系資料では展覧会カタログの遡及入力が新たに加わる予定で,自動登録支援の7機関7件と合わせた入力予定冊数は313,255冊とのことです。
NACSIS-CAT/ILLシステムは,10桁/13桁両方のISBNに対応するために「検索の際には,
10桁/13桁のISBNの種類を気にせずに,ISBNの同一番号体系(同一出版者・番号)を持つ書誌レコードの検索を可能にする」「書誌レコードに記録されたISBNの10桁/13桁にかかわらず,NACSIS-CATのデータベース内では両方の検索用インデクスを作成する」「検索の際には,10桁/13桁のISBNの種類を気にせずに,ISBNの同一番号体系(同一出版者・番号)を持つ書誌レコードの検索を可能にする」の3点の改造を行い,平成18年8月頃の運用開始を予定,これに合わせてWebcatとWebcat
Plus の対応も予定しています。加えて,タイ語資料とデーヴァナーガリー文字資料の運用に合わせた改造も予定しています。
NACSIS-CATの参照ファイル関係では,ドイツ書誌ユーティリティHBZ(ノルトライン−
ヴェストファーレン州立大学図書館センター)との覚書交換に基づき,NACSIS-CATとHBZ-Verbundkatalogとの目録システム間リンクの開発を行い,6月にサービス開始予定のほか,全国漢籍データベース(京都大学人文科学研究所附属漢字情報センター所蔵分)の書誌・所蔵データがRECONファイルに追加される予定で,これにより,WebcatとWebcat
Plusと全国漢籍データベースとの相互リンクが実現されるとのことです。
この他では,業務用CAT/ILLサービスの木曜日の運用延長を実施し,他の平日運用日と同様,20時まで利用可能となりました(土曜日は18時まで,木曜夜の海外向け運用は従来通り休止)。また,検索専用サービスも,これまでの0〜23時だった日曜の休止時間が,0〜8時になり,大幅に短縮されました。
東京農工大学附属図書館(小金井)では今年、小金井市との間で、資料の相互利用、イベント共催、夏期休暇中の受験学習支援について協定を結びました。(記念講演ではあの「生協の白石さん」が登場したことでも話題になりました)。一昨年の大会での「利用者サービス」分科会でも、明海大学浦安キャンパスのメディアセンターの事例として、浦安市と大学の当事者双方が、資料購入、書架の設置、嘱託採用等について予算の計上を行い連携を図っているという報告がありましたが、今後は、資料の閲覧、もしくは住民向けガイダンスの実施といった、大学側のサービスに自治体が乗るという従来の形態から、共同でサービスを発展させていくという形態へと踏み出した形での連携が進むことと考えられます。
さて、地域開放という点では次のような話題があります。
総務省の九州管区行政評価局では、今年3月、九州地区の4大学(福岡教育大、九州工業大、宮崎大、鹿屋体育大)に対して「関係4国立大学法人は、大学図書館について、学内利用者及び一般市民の利便性の向上を図る観点から、日曜日に開館すること」というあっせんを行いました。これは、福岡教育大学図書館の利用者から次のような行政相談の申し出があったことに端を発しています。
申し出によれば、その利用者はかねがね「日曜日に開館すればもっと利用しやすくなる」と考えていたが、他大学では日曜開館を行っている事例があることを知り、「福岡教育大は教育・研究活動に支障のない範囲で日曜開館してほしい」さらに「日曜日が原則閉館日となっている大学附属図書館があれば、日曜日の開館を働きかけてもらいたい」というもので、この申し出を受け、行政苦情救済推進会議に諮った結果を踏まえての措置だということです。
このあっせんが、どのような効力を持つのか、利用ニーズなどについてどの程度調査などされたか不明ですが、宮崎大、福岡教育大で4月から日曜開館が行われるようになったことの大きな理由の一つとして、このあっせんがあったこともあげられるのではないでしょうか。
今後、トップダウンの指示として、地域開放、休日開館といったサービスを開始する例もあるかと思われますが、利用のニーズの把握や自治体との連携方法についてよく煮詰めないまま、ともかく開館すればよいという姿勢では、サービスの発展充実は望めないでしょう。ある公立大学法人では、住民に対して貸出サービスを新たに開始しましたが、経営サイドの意思決定のスピードに準備が追いつかず現場では混乱があったと言う話も耳にしています。
住民への開放という実績作りで終わってしまわないためにも、地域との連携をどう充実・発展させていくのか。現実問題として真剣に考えていく必要があるでしょう。
「図書館利用(者)教育」と「情報リテラシー教育」は,これまであまり(同じものではないという漠然とした理解はあったものの),その違いを明確に意識して図書館員が実践に取り組んできたかというと,必ずしもそうとはいえないのではないでしょうか。大城善盛氏は(1),ACRLが2000年に公表した「高等教育のための情報リテラシー能力基準」(Information Literacy Competency Standards for Higher Education)や,日本図書館協会利用教育委員会が刊行した『図書館利用教育ガイドライン合冊版』(2)を引きながら,用語と概念の整理を試みています。 例えばACRLリテラシー基準では,5つの能力基準を示しています。
情報リテラシーのある学生は,必要とする情報の性質や範囲を決める。
情報リテラシーのある学生は,必要とする情報に効果的・効率的にアクセスする。
情報リテラシーのある学生は,情報および情報源を批判的に(客観的に)評価し,選択した情報を自分の知識ベースおよび価値システムに組み込む。
情報リテラシーのある学生は,個人的にもしくはグループの一員として,特定の目的を達成するために情報を効果的に利用する。
情報リテラシーのある学生は,情報利用に関わる経済的,法的,社会的問題の多くを理解し,情報を倫理的にかつ法律に則って利用する。
また,オーストラリアでのこの問題に関する取り組みを紹介した『私たちの暮らしにとって情報リテラシーとは何か:オセアニア地区大学図書館における取り組みに即して』(3)においても,同様の問題意識が見られます。こうした理解を私たちは十分にもって実践に取り組んでいるでしょうか?
図書館利用教育(とりあえず「情報リテラシー教育」の一部として理解しておきます)は,大学図書館の大学内での存在価値をアピールするための格好の機会として定着しつつあるようです。その状況は大城氏の(1)における調査報告,あるいは「情報リテラシー」をキーワードとしたデータベース検索の結果検索される文献(実践報告)(4),あるいは各図書館のウェブサイトを見て回ると,量的な拡大は明らかです。
しかし,量的に拡大したが故に,次なる問題が出てくるのではないでしょうか。それは,図書館が懸命になって取り組んでいる利用者教育,「情報リテラシー教育」にいったいどういった「効果」があるのかという,評価の問題です。山田かおり氏は,そうした疑問から効果の測定を試みています(5)。図書館利用教育,「情報リテラシー教育」が,大学の教育活動と密接なかかわりを指向するものである以上,これは遠からず直面する問題といえるでしょう。
仁上幸治氏は,情報リテラシー教育における図書館員の役割に関連し,それを図書館員のイメージの転換に資するもの,という指摘をしています(6)。「新しいタイプの図書館員イメージを訴求する取り組み事例として・・・ビデオ『図書館の達人』シリーズがある。このシリーズは,明朗快活な女性司書,レポート作成講習会の講師もこなすスマートで魅力的な男性司書,論文を書き研究発表をする一方で教育的指導のプロでもある女性司書・・・などのキャラクターを造形してきた」。
大学の教育活動との接点として(教育改革が模索される現在であるからこそ)図書館利用教育,「情報リテラシー教育」は,図書館の存在意義を示す格好の場であり,だからこそ,評価に耐えるものとしていくための理論構築(7)が必要となってきます。また仁上氏のいうように図書館職というものが教育的活動を行う職種であることを明確にしていくことも重要なことといえるのではないでしょうか。
大城善盛. わが国の大学図書館における情報リテラシー教育に関する考察. 大学図書館研究, 72, 2004, 10-17.
日本図書館協会利用教育委員会. 図書館利用教育ガイドライン合冊版. 2001, 81p.
Alan Bundy et.al, 高橋隆一郎訳. 私たちの暮らしにとって情報リテラシーとは何か:オセアニア地区大学図書館における取り組みに即して. 2005, 90p.
例えば近年のものでは以下の文献
大野友和. 図書館リテラシーと教育の一翼を担う図書館員:明治大学「図書館活用法」の実践から. 大学図書館研究, 73, 2005, 25-33.
山田かおり. 図書館利用教育の評価:嘉悦大学1年生を対象としたアウトカム測定の試み. 大学図書館研究, 73, 2005, 15-24.
仁上幸治. 学術情報リテラシー教育における広報戦略:司書職の専門性をどう訴求するか. 情報の科学と技術, 55(7), 2005, 310-317.
例えばその「試み」として以下の文献
慈道佐代子. 情報リテラシー教育の理論的枠組みと大学図書館における実践についての考察. 大学図書館研究, 75, 2005, 44-53.
(1)Web2.0
ここ1年でのWeb業界での最大の話題は、Web2.0(ウェブ ニーテンゼロ)に尽きるといってよいでしょう。Web 2.0とは「インターネット上でこの数年間に発生したWebの環境変化とその方向性(トレンド)をまとめたもの」(小川浩, 後藤康成.Web2.0 Book.254p.,2006.3, インプレスジャパン)と定義され、特定のサービスやシステム、製品を指すものではありません。Web2.0の提唱者Tim O'reilly氏などによれば、Web2.0は次のようなサービスが特徴的です(Tim O'Reilly.「What is Web 2.0」http://web2.0.sophia-it.com/)。
1)ユーザー自身による情報の自由な整理、評価、参加によるコンテンツの構築
RSS、Flickrや、ソーシャルブックマーク(SBM:
はてなブックマークなど)、Amazonのレビュー、Wikipediaやオープンソース、ブログ、ソーシャルネットワーキング(SNS: mixiなど)、Amazon、Google、YahooなどのAPIによるマッシュアップ
2)リッチなユーザー体験
Ajax、DHTML、Greasmonkeyなどを使ったGoogleMap、Google
Suggest、Gmail、Writly、NumSum、trackslife、Presentacularなど図書館界でも、ホームページ作成にCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の一つXoopsなどを使うことによりお知らせなどをRSSで発信したり(鹿児島大学附属図書館、京都大学図書館機構、広島修道大学図書館など)(上田貴雪.
ウェブによる図書館の情報発信:コンテンツ・マネジメント・システムの活用. カレントアウェアネスNo.287 2006年3月20日)、新着雑誌や図書の情報をRSSで発信する(農林水産研究情報センター、一橋大学附属図書館)などRSSをサービスに取り入れる例が出てきています。また、愛知淑徳大学図書館「司書の目と耳」や東京大学薬学図書館「東大薬学図書館にっき」など利用者とのコミュニケーションにブログを取り入れているケースもあります。ブログではないがプール学院大学図書館の掲示板も面白い取り組みです。また、PubMedやScopus、PierOnlineなど主要なデータベースが検索結果のRSS配信を開始しています。
このような取り組みはありますが、しかし、上述のようなWeb2.0の本質に踏み込むようなサービスの変化は、図書館界にはまだ現れていないといってよいと思います。そのような中で、農林水産研究情報センターの林賢紀氏による「OPAC2.0」という提案が今後重要性を増すのではないでしょうか。(林
賢紀, 宮坂 和孝RSS(RDF Site Summary)を活用した新たな図書館サービスの展開―OPAC2.0へ向けて―情報管理Vol. 49 (2006),
No. 1 p.11-23
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/1/49_11/_article/-char/ja/)。つまり「キーワードを入力し検索結果として書誌データの一部が返ってくるというシステムそのものについてはOPACの導入当初からなんら変わっていません」(「OPAC2.0を想う」
http://toshokan.weblogs.jp/blog/2006/02/opac20_fc2f.html)。「Web2.0といったインターネットサービスの変化の状況を考慮すると、ここで欠けているのは利用者に書誌データを解放し再利用可能とする、また、他のデータと統合し利用するという視点」です。Web2.0という考え方をOPACや機関リポジトリに導入することにより、研究者がOPACや機関リポジトリの検索結果を、自分のWEBサイトで自由自在に活用したり、利用者自身によりタグ(フォクソノミー)やレビュー、トラックバックがつくことにより、書誌データにも新たな付加価値を生み出すことを可能にします。書誌・文献データを利用してソーシャルブックマーク風に引用・参考文献リストを作成することは、OpenURLとWeb2.0のテクニックを少し応用するだけで簡単にできそうな気がします。
さらに、海外では、Web2.0のテクニックだけではなく考え方そのものを図書館に応用しようとするLibrary2.0、Librarian2.0という考え方も提唱されています(http://www.library2.0.ottergroup.com/blog/_archives/2005/11/19/1413852.html、http://www.techsource.ala.org/blog/blog_detail.php?blog_id=90、http://www.ariadne.ac.uk/issue45/miller/など多数)。
(2)ポータルサイト、OpenURL
国立国会図書館では、NDLデジタルアーカイブポータル(プロトタイプシステム)http://www.dap.ndl.go.jp/home/NDLを我が国のデジタル情報にアクセスする総合的なポータルサイトとして平成16年度から試験的に作成しています。 九州大学附属図書館では,情報検索の結果からの一次資料や関連情報へのナビゲーションを目的として,2005年4月からSerials Solutions社製リンクリゾルバArticle Linkerを導入し,九州大学附属図書館学術情報リンクサービス「きゅうとLinQ」と名付けてサービスを開始しました(片岡真. リンクリゾルバが変える学術ポータル: 九州大学附属図書館「きゅうとLinQ」の取り組み. 情報の科学と技術.56(1), 2006,p.32-27 http://www.infosta.or.jp/journal/200601j.html)。他にOpenURLを活用したポータルとしては、札幌医科大学附属図書館の学術ポータルシステム“PIRKA”などがある(今野穂. 学術ポータルシステム“PIRKA”:開発と夢の軌跡. 情報の科学と技術56(4), 2006. p161-171)。 また、JSTのJDreamU(http://pr.jst.go.jp/jdream2/opac.html)や、医中誌(http://www.jamas.or.jp/ver4/v4_01c.html)、ISI Web of Knowledge(http://www.thomsonscientific.jp/resources/isilinks/index.shtml)、Scopus(http://japan.elsevier.com/products/scopus/features.html)などの商用ポータルもOpenURL対応を謳っています。
(3)蔵書、論文のデジタル化
書籍検索サービスをめぐっては、ポータル各社が電子図書館プロジェクトを立ち上げています。
米Googleは、2004年12月に世界の大規模図書館(スタンフォード大学,ハーバード大学,ミシガン大学,ニューヨーク公立図書館,オックスフォード大学などが参加)の蔵書をスキャンしてデジタル化し,インターネットで全文検索ができるデータベースを作成するプロジェクトを発表しましたが、さまざまな懸念に対処すべく2005年8月に同プロジェクトを一時中断していました。2005年10月31日に,書籍本文検索プロジェクト「Google
Print Library
Project」の再開を発表しました。全米作家協会からは大規模な著作権侵害があるとして集団訴訟に持ち込まれています。(論争を呼ぶ「Google Print
Library Project」のグレイエリア
http://japan.cnet.com/special/story/0,2000056049,20090412,00.htm)
2005年10月2日には、Yahoo!とInternet Archiveが主導するデジタル図書館プロジェクトOpen Content
Alliance(OCA)が旗揚げされています。OCAは,参加機関から寄託を受けた,著作権保護期間外あるいは許諾済みの印刷資料やマルチメディア資料をデジタル化して無料公開する予定で、メタデータをOAI-PMHやRSSで配信することも計画されています。
11月4日には、Microsoftが大英図書館との提携を発表し、著作権が消滅した10万冊をスキャンして、書籍検索サービスMSNBook
Searchで本文を検索できるようにするとのことです(Yahoo!とGoogleのデジタル図書館構想,その岐路. カレントアウェアネス-E (E392)
http://www.ndl.go.jp/jp/library/cae/2005/E-68.html#E392、 書籍デジタル化市場に続々参入.
カレントアウェアネス-E (E403)http://www.ndl.go.jp/jp/library/cae/2005/E-70.html#E403 など)。
学術論文ポータルに関する企業の動きとしては、Tomson
Scientific社は、NECと協力して、ウェブ上の学術論文(オープンアクセス誌や機関リポジトリ)の引用データベースWeb CitationIndexを開発(http://scientific.thomson.com/press/2005/8298416/)、サン・マイクロシステムズ社、エンデバー・インフォーメーション・システムズ社、エルゼビア社の3社が、デジタル情報の長期保存を目的としたリポジトリ開発に関するパートナーシップを組んだとのことです(http://www.sun.com/smi/Press/sunflash/2005-10/sunflash.20051019.4.html)。
また、JSTが,日本の学術雑誌52誌に掲載された論文3万編を無料で提供する「Journal@rcive」を2006年3月27日より公開しています(http://www.jst.go.jp/pr/info/info271/index.html)。
(4)機関リポジトリ
機関リポジトリは、以下のように定義されています。「大学とその構成員が創造したデジタル資料の管理や発信を行うために,大学がそのコミュニティの構成員に提供する一連のサービス」(Lynch,
Clifford A.“Institutionalrepositories: essentialinfrastructure forscholarship in
thedigital age.” ARLBimonthly Report. 226,2003)
機関リポジトリが広く知られるようになったのは、SPARCの運動を通してと言われていますが(機関リポジトリ擁護論: SPARC声明書(原文英語)邦訳http://www.tokiwa.ac.jp/~mtkuri/translations/case_for_ir_jptr.html)、国内では、公式なものとしては国立大学図書館協会図書館高度情報化特別委員会WGの『電子図書館の新たな潮流』(2003.5)で「学術機関リポジトリによる学内学術情報の発信強化」が謳われたことが初め、と言ってよいでしょう。また、2006年3月23日の科学技術・学術審議会
学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』などにも盛り込まれています。
国立情報学研究所では、メタデータ・データベース共同構築事業の一環として2004年6月から2005年3月まで行った「学術機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクト」の跡を受ける形で、メタデータ・データベース共同構築事業などの次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業デジタルコンテンツ関連の既存サービスの一部を機関リポジトリに発展的に統合することをめざし、2005年度に試験的に19大学に機関リポジトリ関連業務を委託しました。19大学は、以下のとおりです(()内はリポジトリ名(試行、準備サイト含む))。北海道大学(HUSCAP)、東北大学、筑波大学(つくばリポジトリ)、東京大学(UTリポジトリ)、東京工業大学、東京学芸大学(東京学芸大学リポジトリ)、千葉大学(CURATOR)、名古屋大学(Nagoya
Repository/ 名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリー)、金沢大学、京都大学、大阪大学(大阪大学機関リポジトリ)、岡山大学(OU-DIR)、広島大学(広島大学学術情報リポジトリ)、山口大学(YUNOCA)、九州大学、長崎大学、熊本大学(熊本大学
学術リポジトリ)、慶應義塾大学、早稲田大学(DSpace at Waseda
University)さらに、2006年度は、国立情報学研究所の最先端学術情報基盤(CSI)の一環として機関リポジトリを位置づけ、次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業委託事業として国公私立大学100大学程度に委託することとし、コンテンツ拡充を含む機関リポジトリ構築・運用や機関リポジトリに係る先駆的な研究開発について公募を開始しています。
なかでも、千葉大学は国内のトップを切って機関リポジトリCURATOを本稼働させていますが、2006年4月10日、エルゼビアのScirus(サイラス)のリポジトリ検索サービスの最初のリポジトリとして千葉大学のCURATORを検索対象として索引付けすると発表しています(http://japan.elsevier.com/librarians/newsletters/Chiba_Scirus_press_release_Japanese.pdf)。
また、大学以外でも、産総研産業技術総合研究所グリッド研究センターや理化学研究所脳科学総合研究センターなどの研究機関でも機関リポジトリを運用しています。
余談ながら、機関リポジトリが、従来の電子図書館と一番違うのは、ボーンデジタルな情報のみを(あるいは主として)扱う点と、研究者自身が投稿する(できる)という考え方です。立ち上げ期の現在、従来の電子図書館的手法で当座のコンテンツを集中的に構築するのは仕方がないとしても、大学の研究成果を大学自身に取り戻すというオープンアクセスに繋がる考え方を見失わないようにしないと、いつかの電子図書館の失敗を繰り返すことになりかねないのではないでしょうか。
(5)著作権、グリーンジャーナル
機関リポジトリ運用の最大の課題とも言える著作権について、国立大学図書館協会 学術情報委員会「デジタルコンテンツプロジェクト」では、2006年1月から国内の学協会1730学会に対して、機関リポジトリへの論文掲載許諾状況を調査するために、「著作権の取扱いに関するアンケート」を実施しました。それによると、17%がいわゆるグリーンジャーナル(セルフ・アーカイビング可)で、大半の学会は明確な方針を立てていないとのことです。
「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会・平成18年3月23日)(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm
・大図研ホームページからリンク有)には、図書館協力に関して、「大学図書館や情報処理関係施設等、各大学に置かれる学術情報基盤を構成する施設においては、限られた資源をより充実し、最大限の効果を生み出すために、今後、大学の壁を超えた、さらには大学と他機関相互が連携するシステムを構築していくことが必要である」との記述があります。
各大学図書館が研究や教育についての要望にこたえるためには、図書館間、関連団体間の協力体制を強化し、文献複写、資料の交換、ネットワークを活用した連携活動を展開させることが求められます。
大学図書館間協力のための団体には、設置母体の区別から国立大学図書館協会、公立大学協会図書館協議会、私立大学図書館協会があり、それぞれの団体にて研修や各種委員会などの協力活動が進められています。
また、これら3つの壁を超えた活動として、国公私立大学図書館協力委員会が挙げられます。同委員会により、2005年10月に「新たな相互貸借を目指して-ILLサービスの課題と書誌ユーティリティ-」と題するシンポウジウムが開催されました。これは、同委員会と国立情報学研究所の共同で設置された「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト」の報告に基づくものです。このプロジェクトは、目録所在サービス(NACSIS-CAT/ILL)のかかえる課題を取り上げたものですが、NACSIS-CAT/ILLは、共同構築、学術情報資源の共有という理念により支えられており、図書館協力という視点からも考慮すべき内容です。
国公私立大学図書館協力委員会の協力活動としては、著作権についての取り組みもあり、2005年7月には大学図書館間協力における資料複写に関して、2006年1月には複製物の写り込みに関して、それぞれガイドラインが発表されています。
大学図書館関係の団体による協力活動として、日本図書館協会大学図書館部会により2005年9月に開催された情報支援サービスとアウトソーシングに関する研究集会も挙げられます。
以上のような全国レベルではなく、近隣地域の大学により結成された団体での各種協力もみられます。
また、海外の図書館、図書館関連団体との協力による文献提供や人的交流も実施さ れています。国際的な相互貸借の環境であるグローバルILLフレームワーク(GIF)
(www.libra.titech.ac.jp/GIF/)への2006年3月17日時点の日本側参加館は126館(115機関とのことです。また、国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)の北米会合(2005年4月、2006年3月)、欧州会合(2005年9・10月))には国公私立大学図書館協力委員会・国立大学図書館協会からも参加しているとのことです。
大学図書館のみを対象とした団体ではありませんが、専門図書館協議会、日本医学図書館協会、日本農学図書館協議会、日本薬学図書館協議会といった団体での大学図書館による協力活動もみられます。
また、国立国会図書館のレファレンス協同データベース事業(crd.ndl.go.jp/jp/public/)は2005年4月から本格事業化されましたが、大学図書館からの参加もあります。
日本図書館情報学会による「LIPER:情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究」は2006年3月に終了しましたが、大学図書館班において、大学図書館員の意識と必要な知識・技能についての分析と考察がなされたとのことです。
大学図書館問題研究会は、現場の図書館員を中心とする自主的・実践的な研究団体という特徴をもっているおり、全国大会において図書館協力のあり方について意見交換ができれば有益であると思われます。
2004年4月に国立大学が法人化され2年が経過しました。法人化後、国立大学がどのように変化しつつあるのかということは、国立大学関係者であればともかく、それ以外の人間にはなかなか見えにくい部分がいまだ多くあるというのが実情です。
『情報の科学と技術』55巻12号(2005.12)は、「国立大学法人化」を特集しました。ここにある諸富秀人「法人化後の図書館運営」の記事によって、国立大学内での図書館、図書館長の位置づけ、図書館組織の変化、についての一端を知ることができます。
(図書館の位置づけ)
[法人化前](全95大学)
部課長制図書館:36、事務長制図書館:40(計76大学、全体の80%の図書館が組織として独立している)
教務部等に所属する課制の図書館:19大学(全体の20%の図書館が組織として独立していない)
[法人化後](全83大学)
図書館が独立した組織として位置づけられている:40大学(全体の48%。旧帝大等大規模大学または小規模大学に多い)
他の43大学は研究協力部等他の部の中の一つまたは二つの図書系の課として位置づけられた(うち教務・学務部など学生系が10大学、学術情報部等研究系が23大学、事務局または総務部に所属が10大学)
(図書館長) [法人化前]
教員の併任がほとんど
[法人化後]
理事・副学長または副学長が図書館長を兼務:25大学(うち、学長自ら図書館長を兼務:1大学、図書館担当副学長が図書館長を兼務:3大学。)
「副館長」を置く大学:10大学(うち、副館長2名体制(教員系と事務系1名 ずつ):2大学、理事・副学長または副学長が図書館長を兼務:7大学)
諸富氏は、独立した図書館組織の減少は大学内での図書館の位置の相対的低下であるとし、ひいては国立大学図書館界全体の弱体化が避けられない、と危惧の念を表明しています。また、図書館長をめぐる動きについても、一見図書館の立場が強化されたように見えるが検証が必要であるとしています。
国立大学図書館の現場ではこれらについてどういった評価がされているのでしょうか。オープンな情報交換が求められます。
また、この文献では、図書館の業務改革としてサービス部門強化のためにグループ制を導入した広島大学附属図書館の事例を知ることができます。
永田治樹氏は同じ号の「大学評価と図書館評価」のなかで、これまで図書館の活動、改善の努力が必ずしも大学の意思決定者に伝わってこなかったということを指摘し、その理由として1994年に作成された報告書『国立大学図書館における自己点検・評価について−よりよき実施に向けての提言−』から、「大学の教育研究と図書館活動との関係の密接さを反映させた議論へと展開できなかったのだろう」という指摘を引用しています。こうした図書館側の弱点を考慮しつつ永田氏はこの論考の中で、今後、大学における図書館評価がどういった点にウエイトをおいて進んでいくのかということを米国の事例を紹介しながら検討しています。
そのすべてをここで紹介することはできませんが、端的にいえば、図書館の評価は「成果」によってなされるということです。米国の認証評価機関の大学に対する評価基準は、「学生をいかほど教育したか(学生の数や卒業率といったこと)ではなく、学生がどれほど学習の成果を上げられるようにしたか、それを実現できたかが問題」であり「大学評価はそのように行う必要があり、図書館も図書館の活動がどのように学生の学習に寄与しているかが問われるようになった」としています。そして学生への教育支援といった中ではとりわけ情報リテラシー教育への貢献が重要であることを指摘しています。ただしここでいう「情報リテラシー」は、「単に情報の探索やハンドリングだけではな」く、「問題解決への判断や情報内容に対する評価を含むものであ」るとしていることを見過ごしてはならないでしょう。日本の多くの大学図書館の情報リテラシー教育がいまだここまで到達していないことを私たちは肝に銘じるべきでしょう。
冒頭述べた、国立大学図書館の組織改編(大学の中での図書館の位置づけの変化)がどういった影響を及ぼすのかも、そのプラス面、マイナス面いずれをも見据えつつ、永田氏の述べる大きなコンテクストに沿った活動を展開する必要があるのではないでしょうか。
なお、日本の大学における情報リテラシー教育については、2006年3月に発表さ
れた『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』の中の「2.5.図書館 サービスの問題点」のひとつとして取り上げられ、「現時点で多くの大学図書館で行われている情報リテラシー教育は教養教育及び各専門分野における教育との連携が不十分であり、効果が限定的である」と指摘されています。
さて、昨年度大学図書館界を驚かせた業務全面委託を実施した江戸川大学図書館からのレポートが『大学図書館研究』75号(2005.12)に掲載されています(平岡健次「江戸川大学の図書館全面業務委託この1年」)。業務全面委託の実質的担当者からのこのレポートから私たちは、図書館の全面業務委託の実情を知るとともに、大学における図書館の役割とは何か、業務合理化・標準化のためのIT活用の具体例、大学における「専任職員」の役割など、さまざまな点について考える必要があるように思います。
業務全面委託を実施した江戸川大学図書館にとっては、従来の業務分析でいわれていた「専門的業務」「非専門的業務」(平岡氏は「日常的業務」としていますが、要は「定型的業務」と考えてよいでしょう)はすべて派遣職員の仕事となります。平岡氏は次のように述べます。「もはや日常的業務と専門的業務に図書館業務を切り分け日常業務のみを業務委託するという時代ではなく、専任職員は大学ミッションを図書館で働く派遣スタッフに伝えて、大学全体を活性化することに集約される時代が来ているのではないだろうか。その場合、必ずしも専任職員が司書資格保持者である必要はないのではないか。大学ミッションの具現化ができるビジョンと見識を持った人材であれば図書館の戦略的運営は可能である」。
平岡氏はこう述べる一方で、図書館業務の委託によって、高い能力を持った司書が低賃金労働者として働かざるを得ない状況についても指摘しています。この点については、本誌25巻1号(2006年1月号)で、昨年の全国図書館大会のレポートを寄稿してくださった渡辺志津子氏も、図書館大会での平岡氏の報告から「有用な人材のパイはいずれ食い尽くされる日が必ず来るわけで、今のようなコストで運営し続けられないことを(平岡氏は:筆者注)よく認識なさっていた」という指摘を行っています(「2005年度全国図書館大会報告
―職員問題の視点から」)。
平岡氏は業務委託問題について「何を捨てるのかを考えるのではなく、それにより何を生み出すのかを考える視点が大切ではないだろうか。私たちよりも優秀な外部の専門家集団に委託をするのだから、多くの図書館業務は業務委託のほうが効率的に行うことができる。…昨今の図書館業務委託事業の実態として、人件費削減などを目的としたコスト追求型から、業務の流れの効率化や大学改革支援までを含んだ付加価値追求型へのシフトがある。業務委託業者はもはや単なる請負業者ではなく、ビジネスパートナーとして戦略的に大学に近づいてきているといえるのではないか」という興味深い指摘をしています。これは、言葉の本来的な意味での「アウトソーシング」が実現しつつあるということなのかもしれません。
永田氏が指摘する、図書館の活動を大学全体の視野から見る必要性を考えると、
平岡氏の提起した問題は、専任図書館職員として(相対的高収入を得て)働いている一人ひとりに対して重い課題を突きつけているといえるのではないでしょうか?
日本図書館情報学会が2003年度から3年間かけて実施した共同研究「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究」(Libraryand
Information Professions and Education Renewal:LIPER)は、2006年3月に報告書を出して終了しました(報告書は以下にあります:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jslis/liper/report06/report.htm)。
大学図書館班は、8大学23グループに対して実施したフォーカス・グループ・インタビューと、2004年度に大学図書館員を対象として実施した質問紙調査という2つの調査から得られたデータの分析により、[1]大学図書館員にとって必要な知識・技術は何か、[2]それはどういった機会に習得されるのが適切かを明らかにすることを中心課題としていました。成果の一端は永田治樹氏の「大学図書館における情報専門職の知識・技術の体系:LIPER大学図書館調査から」(図書館雑誌、
99(11)、 2005)で知ることができます。
上記二つの課題のうち、[2]についてはいまだ十分な分析はなされていないものの、[1]については一定の成果が上がっているといえるでしょう。とりわけ、大学図書館員にとって必要な知識・技術を、英国図書館・情報専門家協会(CILIP)の「専門職知識の体系」(Body
of Professional Knowledge:BPK)の枠組みを用いて3つの領域(「中核となる知識・技術領域(Core
Schema)」「実現環境の知識・技術領域(Application Environment)」「汎用的・移転可能な知識・技術領域(Generic and
transferable
skills)」)に分けて整理している点は注目すべきところです。永田氏が上記論考の中で「中核的な知識・技術のほか、汎用的・移転可能な知識・技術も重要だと強く認識されている。とくに、企画力やコミュニケーション能力である」と指摘しているように、大学図書館員にとって伝統的に専門的知識・技術とされてきたもの(資料組織、情報検索技術、コレクション形成等)以外に、大学(組織)で一般的に必要とされている知識・技術を習得することの必要性に対する認識が強まってきていることを、このBPKの枠組みはうまく表現しているように思われます。
図書館界は「図書館員の専門性」について長い間議論をしてきました。しかし,業務委託の進展,経営・業務の効率化への要求,電子的環境の急速な展開といった眼前の課題が避けられないものとして存在する現在の状況の中,私たちは,「司書」だけで図書館を運営できるのか? といった点から私たちの議論を再点検することが必要な時期に来ているのではないでしょうか?
文字・活字文化振興法が2005年7月22日に成立しました。提案者である、活字文化議員連盟は、この法案と同時にこの法律の施行に伴う施策の展開として26項目をつけています。日本図書館協会は(1)現行の法や施策との関連が明らかでない (2)内容についても同意しにくいものもあるとの理由で、図書館、出版社など当事者の合意のうえ慎重な審議を望む意見書を議員宛に出しました。この法案の衆参両議院委員会での審議は行われませんでした。日本書籍協会と日本雑誌協会は「自由な言論・表現・出版が保障されるもとで同法の基本理念を実現する」こと等の談話を発表しました。この後11月に日本図書館協会はこの法律の施策の具体化について日本書籍協会と懇談しました。
IFLA 著作権・法的問題委員会の会合で、ヨーロッパ連合では音楽著作権の保護期間を95年に延長する動きがあることが報告されました。また、IFLA オスロ大会の著作権分科会では、ベルヌ条約では、著作物の保護期間が著作者の死後50年となっているが、欧米の国内法では70年となっている点について、批判が集中したようです。
文化審議会著作権部会法制問題小委員会は12月、報告書をとりまとめました。文化庁は、著作権法改正に関する要望を昨年募集し、文化審議会著作権分科会が1月にとりまとめた「著作権法に関する今後の検討課題」のうち「権利制限の見直し」などを取り上げてこの小委員会が検討をすすめてきたものです。
このうち図書館関係の以下に示す6点について、小委員会の報告によると、すべての項目について、ひきつづき検討を要するので法制化は見送るという結論になっています。
(著作権法)第31条の「図書館資料」に、他の図書館から借り受けた図書館資料を含めることについて
図書館等においてファクシミリ、電子メールを利用して、著作物の複製物を送付することについて
図書館等において、調査研究の目的でインターネット上の情報をプリントアウトすることについて
「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製することについて
図書館等における、官公庁作成広報資料および報告書等の全部分の複製による提供について
著作権法第37条第3項について、複製の方法を録音に限定しないこと、利用者を視覚障害者に限定しないこと、対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと、視覚障害者も含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて
その一方、「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」(図書館側5団体、権利者側6団体)は上記のうち2項目について合意し、
図書館間協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン
複製物の写り込みに関するガイドラインがまとめられ(1月)、大学図書館における著作権問題Q&A 第5版にまとめられました(3月)。
昨年の平成17年4月1日より、「個人情報保護法」が全面施行されました。この1年でこの法律が社会に広く認知された感がありますが、それは皮肉にも、頻発する「個人情報」流出のニュースと、必要と思われる情報までをも隠してしまう、過剰な保護事例が続出した結果ともいえそうです。
個人情報・顧客情報の入ったPCごと紛失したり盗難に遭う、メールの誤送信、ファイル交換ソフトを介して機密情報までもが流出する事件が連日のように報道されています。図書館でも、利用者情報が流出する事件が起きたり図書館での名簿の閲覧を制限・検討するうごきが新聞で論じられたこともあり、この対応には敏感ならざるを得ないところも多かったのではないでしょうか。
平成15年4月の閣議決定された「個人情報の保護に関する基本方針」では、事業者が講ずべき事項として個人情報保護に関する方針の宣言を策定・公表することが挙げられていました。今年4月の保護法の全面施行にともない、各機関はプライバシーポリシーや個人情報保護方針といった組織内の規定整備に追われました。具体的には、取得する個人情報の洗い出し、利用目的の特定、利用目的の明示、情報管理体制の整備、第三者提供の制限、情報開示・訂正・停止等の対応、法的公表義務事項の公表などの対応があります。
そもそも、一般に個人情報保護法(正確には「個人情報の保護に関する法律」)といわれるものは民間事業主に適用されるものを指します。公的機関に対しては、行政機関個人情報保護法(「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」)や独立行政法人等個人情報保護法(「独立行政法人の保有する個人情報の保護に関する法律」)が適用され、また地方公共団体においては各地方公共団体で制定する個人情報保護条例が適用されることになります。各図書館の設置母体によって適用する法律に違いがあることに注意が必要です。なお個人情報保護法の基本法にあたる1章〜3章は公的部門と民間部門両方が対象となっています。
大学図書館において、私立大学は個人情報保護法、国立大学では独立行政法人等個人情報保護法の適用を受けることになります。それぞれ、法律の規制を受ける「個人情報」の条件が異って私立おり、私立大なら5000人以上・6ヶ月以上保有するもの、国立大なら1000人以上・1年以上保有するものについてを指しています。また国立大では「個人情報ファイル簿」の作成および公表が義務付けられ、図書館の利用者情報なども利用目的や記録される項目、個人情報の収集方法、これら個人情報の本人による開示請求先等が明示する必要がありますが(独立行政法人等個人情報保護法第11条)、組織によってその対応にはまだばらつきがあるようです。しばらくは、学内や大学図書館界での事例や動きを見守りつつその運用を見直していくことも必要でしょう。
一方、公立大学ではその設置母体となる地方公共団体の制定する個人情報保護条例が適用されます。総務省が発表する「地方公共団体における個人情報保護条例の制定情報等」http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060203_3.htmlによれば、平成18年1月1日現在で都道府県・政令指定都市および特別区では条例制定率100%、市区町村も99.8%と施行時期から全国的に整備が進みました。(未制定の5市町村も今年度中に制定予定)
図書館において扱われる個人情報の種類として利用者情報、貸出記録、レファレンスや複写、リクエストサービス記録、督促情報などが挙げられますが、図書館資料そのものについては、内閣府個人情報保護推進室より「図書館などが所蔵し提供している資料は(個人情報保護法の)対象とならない」という見解が出されており(『図書館雑誌』99(6),362,2005)、個人情報保護条例の多くでも図書館資料については適用除外規定を設けているようです。
一方、図書館で作成・提供される目録および典拠ファイル等も、個人情報を体系的に構成され、検索可能なものとしての"個人情報ファイル"(法令により呼称が異なる)にあたるとされ、その運用について図書館協会目録委員会より平成17年6月11日に「個人情報保護と日本目録規則(NCR)との関連について」という指針が発表されました。目録レコード作成の際に、公刊物以外の情報源から本人の同意なしに取得した個人情報については公表することができない等注意が喚起されています。
また、防犯カメラを設置する大学や図書館も増えてきており、その設置と映像の取り扱いに関しても注意が必要です。経済産業省のガイドラインでは「防犯カメラに記録された情報等本人が判別できる映像情報」も個人情報に該当する事例として挙げられています。都道府県警のHPでも防犯カメラの設置に関するガイドラインが公表されているので、現在運用中、または今後導入を検討している機関はそれらも参考にするとよいでしょう。
個人情報保護への取組みとして、民間部門にはプライバシーマーク(Pマーク)制度があります。これは、経済産業省の外郭団体である(財)日本情報処理開発協会(JIPDEC)とその指定した機関が「JISQ15001:個人情報保護に関するコアプライアンス・プログラム」(2006年5月に改正予定)の要求事項に基づいた個人情報管理体制を審査し、適合した事業者に「プライバシーマーク(Pマーク)の使用を認める制度です。2年ごとに更新審査も実施され、認定を受けた事業者、認定の取り消された事業者名は協会HPに公表されます。
(財)日本情報処理開発協会 http://www.jipdec.jp/
大学としていち早くこのPマーク取得に臨んだのは産業能率大学です。保護法成立前から学内対策に着手し、2003年5月に4年制大学として初めてPマークを取得しました。eラーニングによって理事長以下、パートを含む全教職員が個人情報保護研修を受講。また全学年の学生に対しても毎年教育・テストを実施しているようです。2006年4月には、徳島大学病院が取得。こうして大学でもPマーク取得へ動き出すところが出始めています。Pマーク制度自体は民間事業者を前提としていますが、自治体などでも取得は可能とされてます。
また、業務委託においても、事業者の入札の際にはPマークを取得している事を要件とするなど、組織の個人情報保護を重視する動きも見られます。
そもそも、図書館は「図書館の自由に関する宣言」において「利用者の秘密を守」り、また「知る自由を保証する」ため「資料提供の自由を有する」ことを実践してきた機関であるはずです。この原点に立ち返り、個人情報保護法に過剰反応することなく、図書館の機能と役割を果たしていくことが大切なのではないでしょうか。