【討議資料】 大学図書館をめぐる動き

 討議資料は、本年8月25日(土)−27日(月)兵庫において全国大会を開催するにあたり、最近の大学図書館の諸問題について、常任委員会でまとめたものです。これを参考に分散会や全体会において、活発な議論が行われることを願っております。

【目次】

  1. 大学と大学図書館をめぐる新しい動き
  2. 出版・流通
  3. 国立情報学研究所(NII)とNACSIS-CAT/ILL(目録関連を中心に)
  4. 利用者サービス
  5. 組織運営
  6. 法制度ほか
 

1.大学と大学図書館をめぐる新しい動き

 昨年度は、12月の国会での教育基本法改正案の可決、それと合わせての著作権法改正案可決など大きな法改正の動きがありました。教育基本法の改正はそれに根ざした図書館法にまで影響が出ることが考えられ、今後1、2年はその動きを注視していなければならないでしょう。
 少子化などの影響はここ数年引き続き厳しく、特に私学の経営環境も悪化が心配されています。私立大学でもいくつかの大学で合併の動きが出ています。国立大学も効率化経費1%ということで、予算が削減されていきます。その厳しい状況の中で、開館時間延長や学外利用者への開放が行われているという状況があります。平成17年度の「学術基盤実態調査」の結果によると、学外者への公開は、97.7%の大学で実施されており、学外利用者数は過去最高の148万人となっています。
 さらに、いわゆる「2007年大量退職問題」が社会的な問題となってます。高度成長期を支えてきた団塊の世代の大量退職により、技術の継承が危ぶまれています。図書館も例外ではありません。国立大学では、今後3年で図書系の管理職の4割が辞めるという話もあります。大図研としても、この問題について研究会等を企画するなどしました(6月30日に行われたオープンカレッジがこの問題について取り上げています)。また、生涯学習の観点から見て退職者も学生と成り得ることを考えれば、利用者としての受け入れについても検討しなければならないでしょう。
 組織改革については、国立大学法人化後、チーム制やグループ制などを取り入れるところが出て来ています。学術情報部など図書館再編の動きとも合わせて、そのメリット・デメリットを評価して行く必要があるでしょう。
 法人化後3年を過ぎました。中期計画も中間点を過ぎ、あと1〜2年くらいするとその成果が見えてくるのでしょうか。

 学術情報の流通の面でも、変革が続いています。大学全体で電子ジャーナルの総種類数が44.4%が増加する(平成17年度の「学術基盤実態調査」)中で、電子ジャーナル費用の共通経費化などの試みがなされています。また、いろいろな形式での学術情報の提供が増えています。オープンアクセス誌は苦戦気味ですが、出版社の提示したオープンアクセスオプションの登場など、さまざまな雑誌論文公開・流通のモデルが登場してきています。
 また、昨年度は国立情報学研究所の委託事業(次世代コンテンツ基盤共同開発事業)を受けて機関リポジトリが増加した年でした。これは、図書館の介在により、著者が機関に設置されたサイトにおいて自身の執筆した論文を公開する基盤ができつつあるということです。著作権の問題など解決しなければならない問題は多くありますが、オープンアクセスと並び、あらたな流通モデルとなっています。
 さらに、検索エンジンなどが情報流通に欠かせなくなっています。Google が著作権の切れた図書の電子化に乗り出すなど、図書館の担っていた分野への進出を進めています。検索エンジンがデータベースの内容を収集するなどの動きもあります。
 国立国会図書館においても、Web ページのアーカイブなどが本格的に運用されてきています。
 このように、情報の流通モデルが変化してゆく中、図書館は何ができるのかということを考えて行かねばなりません。
 情報を扱うツールも進化し続けています。Web2.0と呼ばれるような、新しい技術の出現の中、図書館はそれらにどこまで対応できているのでしょうか。一部の大学では業務にブログなどを生かす試みが行われているようですが…。
 このような中で大学は多様性を増して行き、ついにはネット上の大学、サイバー大学までもが開学しました。

 この他にもこの一年は、アスベスト除去のための大型改修による長期休館も多くの図書館でありました。国立国会図書館長に初の非参院・衆院出身者がなったことも、独立法人化ということもささやかれている昨今、注目に値することでしょう。
 また、実名報道記事などの取り扱いなど図書館の自由に関して考えさせる事件や、差別用語が件名に利用されており件名を付け替えた事例など、図書館の基本的な部分にかかわる問題もあった年でした。大学図書館をとりまく環境が日々変化して行く中、われわれは現場において基本を忘れず、課題を検討しつつ実践を重ね、その経験を伝えてゆくことを考えてゆかねばなりません。

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2.出版・流通

 2006年の出版物売上は前年比2%減の模様で96年を超えることはないだろうという昨年の予測はいやな感じであたりそうです。
 雑誌がかなり落ち込みました。書籍が若干の増となったのは「ハリポタ」第6巻の影響かといわれています.全体で2%減です。新刊点数は77,000で推定発行部数は4億冊。新刊1点あたりの発行部数は5,200冊だそうです。けっこう刷っているのですね。単純平均で価格は1,200円弱。
 いくつか特徴を列記します。ここにきて新書ブームだといわれています。火付け役は03年創刊の新潮新書です。どこの図書館にも「バカの壁」はあるのではないでしょうか。最近でも朝日新聞社の朝日新書、幻冬舎新書が発刊されています。インターネット関連ではGoogleをテーマにした本が100点以上発行されておりその動向が注目されているのがよくわかります。ホームページやブログから作られた本もよく出版されているようです。またフリーペーパーがさかんです。R25が成功したリクルートは早速L25を出したのはみなさんご存じの通りです。マンガ週刊誌まで出ているという話です。雑誌の落ち込みはこれが原因でしょうか。自費出版もはなざかりですが著者と出版社との金銭トラブルも多いようです。
 再販制に関しては当面制度の見直しはないということで落ち着いてきましたが、委託の制度疲労でしょうか、書店の廃業が止みません。全国小売書店経営実態調査報告書という長い報告書の生の声を見ますと、悲痛な叫び声が満ちあふれています。出版流通業界での問題は根が深く早急には解決できそうもないようです。
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3.国立情報学研究所(NII)とNACSIS-CAT/ILL(目録関連を中心に)

3-1 国立情報学研究所(NII)をめぐる動向

 国立大学法人化後、各大学において業務の効率化等を推進するため、グループ制・フラット化が進められていますが、国立情報学研究所(NII)においても、平成19年4月に組織改組されました。NACSIS-CAT/ILL担当は学術基盤推進部学術コンテンツ課、研修事業は学術基盤推進部基盤企画課となり、係制からグループ制に移行、「係」が「担当」に変更となりました。
 平成17年10月に「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト最終報告」が公開されましたが、これに対するNIIアクションプランのひとつである「目録業務外注のための仕様書モデル(案)」を現在作成中で、完成次第公開し、意見公募を実施する予定です。
 
(1)目録所在情報サービスを対象とする講習会等に関する検討ワーキング・グループ
 平成17年12月に設置された「目録所在情報サービスを対象とする講習会等に関する検討ワーキング・グループ」は、平成17年度末に中間報告書をまとめ(http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/cat-tr-wg/interim_report.pdf)、意見の公募を実施し、それらの意見を参考にして最終報告書をまとめるべく活動していましたが、平成18年度末に、1年4ヶ月にわたる検討・作業を終了し、その結果を「最終報告書」として教育研修事業ウェブサイトで公開予定で、とりまとめを進めています。なお、昨年6月に実施されたワーキング・グループメンバーによる海外書誌ユーティリティ訪問調査は「平成18年度海外書誌ユーティリティ調査報告」としてまとめられ、公開されました(http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/cat-tr-wg/study_report.pdf)。平成17 年度の文献等による海外書誌ユーティリティ調査を踏まえて、「目録システムに関わるe-Learning、チュートリアルに関すること」「目録データベースの品質管理に関すること」「OCLCと地区サービス・プロバイダの連携」の3点を目的とし、書誌ユーティリティ(OCLC)、地区サービス・プロバイダ(PALINET、Amigos Library Services)、大学図書館(ペンシルバニア大学、テキサス大学ダラス校)の調査を行ったものです。
 ワーキング・グループの活動は終了しましたが、NIIでは、その活動を踏まえ、平成18年度に引き続き「講習内容の到達度確認のためのセルフチェックテスト導入(18年度は一部の回次で試行)」「講習会e-Learningコンテンツの一部試験利用・改訂」「講習会e-Learningコンテンツの新規作成」「入力業務等請負業者を対象とする講習会の実施(18年度から継続)」「講師担当者へのフォローアップの充実」「地域活動との連携の検討」等の改善・検討を行い、目録所在情報サービスに係る講習会・研修の更なる充実を目指すとしています。なお、NACSIS-CAT入力業務等請負業者を対象とした目録システム講習会(図書コース)」は今年度も実施予定で受講生の推薦を受け付けています(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/news_cat_edu.html)。
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(2)「NACSIS-CATレコード調整方式検討ワーキンググループ報告書」で提案された応急策の実施
平成18年3月に出された報告書(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_WG_record.html)で提案された次の5つの応急策について、順次実施しました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_WG_record_taisaku.html)。
 応急策1「参加組織情報へのレコード調整連絡先の記入必須化」については、レコード調整連絡をよりスムーズに行えるよう、参加組織情報において、目録担当部局名(CATDEPT)、目録担当者電話番号(CATTEL)、目録担当FAX番号(CATFAX)、E-mailアドレス(EMAIL)の記入を必須化しました。
 応急策2「所蔵館数20館以下でもNIIへの修正連絡依頼を可能に」については、図書書誌レコードを修正した際の所蔵館連絡への負担を軽減するため、所蔵館数20館以下でもNIIに連絡代行依頼ができることとしました。
 応急策3「レコード調整用標準フォーマット(FAX、E-Mail)の作成」については、レコード調整における連絡において、必要な情報をシンプルに連絡することができるように、標準フォーマット(FAX用、E-Mail用)を作成し、NIIのサイト(上記URL参照)や『NII-CAT/ILLニュースレター』18号の付録として提供しています。
 なお、応急策2と応急策3は必須ではなく、従来通りの運用でも可とのことです。
 応急策4「応急策4:コーディングマニュアル「21.1 図書書誌レコード修正事項一覧」の見直し」については、所蔵館連絡を必要とする項目を減らす等、レコード調整の負担を減らす方向で改訂を行っています。
 応急策5「運用注記に関する提案」については、参加館同士での書誌レコード及び資料現物確認作業の負担を減らすため、書誌レコードのNOTEフィールドに記入する運用注記について、定型化を行い、コーディングマニュアル2.2.7、 4.2.7で記入例を提示しました。なお、洋図書レコードの運用注記については、「英語で記述することが望ましいが、日本語で記述することも可能」としました。
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(3)視聴覚資料の取扱いに関する検討会議
 平成18年度に「視聴覚資料の取扱いに関する検討会議」を設置し、7月〜9月にかけて、NACSIS-CATにおける視聴覚資料の取扱いについて検討を行い、その成果として「視聴覚資料に関する取扱い及び解説(案)」及び「コーディングマニュアル(案)」をまとめ、公開するととも、意見公募を行いました。平成19年5月にそれぞれの最終版を確定・公開(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/news_cat_av_start.html)し、6月に本運用開始の予定です。なお、これに伴い、図書書誌レコード全般を対象として、TRフィールドに、資料種別([録音資料]、[sound recording]、[映像資料]、[motion picture]、[videorecording])が記録されている書誌から、上記資料種別を削除するデータメンテナンスを予定しています。
 
(4)NACSIS-CAT全国雑誌所蔵データ更新作業
 「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト」に対する「NIIアクションプラン」の一環として、NACSIS-CAT全国雑誌所蔵データ更新作業を実施、平成18年4月〜9月末までの期間に、のべ1,368の参加館が作業を実施、平成17年4月時点で約30万件だった未更新所蔵レコード件数は、平成18年10月現在で約17万件にまで減少したとのことです。NIIでは今後も各参加館にて年間を通じた所蔵データ更新を適宜行うよう求めています。
 
(5)平成17年度NACSIS-CAT/ILL 業務分析表
 目録所在情報サービスの運用においては、データベースの品質管理が大きな課題となっているところですが、平成17年度においても、各機関のNACSIS-CAT/ILLデータをもとに業務分析を行い、その結果を「NACSIS-CAT/ILL 業務分析表」にまとめ、平成18年12月に各機関に送付しました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_info_bunseki2006.html)。その内容は「NACSIS-CAT/ILL 業務分析表」のほか、「NACSIS-CAT/ILL サービス品質グラフ」「年度図書書誌レコード重複統合処理リスト」「継続所蔵・未更新所蔵リスト」となっています。
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3-2 総合目録データベースと遡及入力事業

 2006(平成18)年度現在の現在の総合目録データベースの現況は、図書が書誌7,893,067件、所蔵88,708,614件、雑誌が書誌294,487件、所蔵4,292,125件で、前年度からの増加は、図書書誌レコードは501,2175件、所蔵は5,758,941件、雑誌書誌レコードは5,414件、所蔵は105,618件の増加となっており、図書の所蔵が9,000万件に到達するのも目前となっています。平成18年度に新規参加した機関は48機関(約半数が中国を中心とした海外機関)で、平成18年度末現在の参加機関は1,188機関となっています。
 平成16年度に開始された遡及入力事業は、平成18年度においては37機関57件が採択されましたが、平成19年度も継続され、「事業(A):大規模遡及入力支援」、「事業(B):自動登録支援」、「事業(C):多言語・レアコレクション(韓国・朝鮮語資料、アラビア文字資料、タイ文字資料・デーヴァナーガリー文字資料、書誌作成が必要となるような資料を中心としたコレクション)」の募集が行われています。事業(C)では、前年度まで対象だった中国語資料が、本事業における新規書誌作成で、年々低下しているため対象外となっています。
 平成18年4月に案として公開され、意見公募されていた「タイ語等資料の取扱い及び解説」と「コーディングマニュアル」及び「展覧会カタログ資料の取扱い」と「コーディングマニュアル」が、それぞれ最終版としてまとまり公開されました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_manu.html)。平成18年度遡及入力事業は、これらに基づいて行われています。
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3-3 その他

(1)NACSIS-CAT/ILL システム関係
 NACSIS-CAT/ILL システムでは、平成18年6月と7月に分けて、「NACSIS-CAT参照ファイルにHBZBKSの追加」「多言語対応」「ISBN13桁化対応」「システム不具合対策」の4点の改修を行いました。「NACSIS-CAT参照ファイルにHBZBKSの追加」は、ドイツ国内の書誌ユーティリティの一つであるHBZ(ノルトライン−ヴェストファーレン州大学図書館センター)のデータベースの導入、「多言語対応」はタイ字入力に対応する設定変更、「ISBN13桁化対応」はISBN13桁の入力を可能とし、10桁/13桁両方に対応するためのISBNフィールドの定義変更、「システム不具合対策」はカタカタ大文字化対策となっています。
 これらに加えて、Windows VistaやMac OSX等のOSやクライアントシステム等の環境によって、NACSIS-CAT/ILLに未対応の文字(JIS漢字第3、第4水準)が入力される場合があることから、その影響範囲を調査し、2段階(暫定対策と本対策)に分けて、CAT/ILLサーバの対応を行うこととしました。暫定対策(平成19年4月から本対策まで)はサポート外文字種に対してエラーを返す処理とし、本対策(平成19年秋を予定)では、サポート文字種を拡張することとしています。また新たに24の言語コードの追加や参加組織ファイルの設置種別、機関種別の追加等を行いました。
 参照ファイル関係では、RLGはOCLCと組織統合し、RLGの目録データベースがOCLC WorldCATとデータ統合され、RLGとしてのサービスが終了するため、参照ファイルの実装ができなくなり、提供が中止となりました。また、全国漢籍データベースの京都大学人文科学研究所附属漢字情報センター所蔵分の6,517件(書誌・所蔵とも)がRECONファイルに追加されました。これにより、「NACSIS Webcat」及び「Webcat Plus」と全国漢籍データベースとの相互リンクが実現されました。
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(2)SPCATの新規提供終了
 平成14年度から提供されてきたSPCAT(Selected Package CAT:WWW対応個別版)は、パーソナル・コンピュータ(Microsoft Windowsマシン)上で動作する、NACSIS-CAT小規模参加館向けのOPACシステムであり、それぞれの図書館がNACSIS-CATに登録したデータ(最大:所蔵レコード約12万件)の検索を可能とするものですが、OPACシステムの普及、最新Windows環境との互換性問題、新規申請数の減少の理由により、平成19年度3月末をもって、新規提供終了となりました(継続利用参加館へのサポートは継続)。代替サービスについては検討中とのことです。
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(3)Webcat及びWebcat Plusのサービスに関するアンケート
 GeNiiユーザビリティ調査の一環として、平成18年7〜8月に実施したWebcat及びWebcat Plusのサービスに関するアンケートの集計結果が公開されました(http://webcatplus.nii.ac.jp/enquote_result.html)。のべ695名の回答の多数は、図書館・情報サービス関係者が占めています。Webcatが先行・定着しているサービスということもあってか、利用頻度は圧倒的であり、その利用理由として、サービスへの慣れを挙げる回答がトップとなっていますが、欲しい情報が見つかる、使い勝手の良さ、検索結果表示が見やすい、といった回答も多く見られます。NIIでは、この結果は今後のWebcat/WebcatPlusサービス改善などを図っていくための基礎資料とするとのことです。
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4.利用者サービス

4-1 地域開放

 昨年の分科会「利用者サービス」では地域開放をテーマに取り上げました。これからの利用者サービスを考える上で、大学の構成員以外をも対象にした広い意味での「利用者サービス」をどのように展開していくかということも、大きな要素の一つになってくるのではないか、そのように感じさせられた分科会でした。
 そういった意味では、いささか旧聞に属しますが、三重大学が平成16年度から3年間にわたって実施した学校図書館支援事業は、地域貢献の一つの形といえるでしょう。これは、三重大学附属図書館が文部科学省からの予算配分を受けて津市教育委員会、連携モデル校(小学校6)と共同で実施したもので、司書教諭や学校図書館ボランティアを対象に、リテラシーやパスファインダー入門、情報メディアの活用等についての講習会を開催し、図書館単体ではなく人文学部の講義の公開や学生による「学校図書館まつり」への参加(人形劇上演)など多彩な内容に及ぶものです。
 結果、連携モデル校においては、貸出冊数や津市立図書館からの団体貸出冊数、学校図書館ボランティアの登録希望者が増加し、効果が実証された形になったとのことです。
 この事例のように、サービスそのものを図書館から飛び出して展開する。自館のみならず他館のサービス向上にも貢献し、相互に活性化しあう。そういった新しい形も今後考えていく必要があるのではないかと考えさせられます。
 
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4-2 リテラシー

 リテラシーについては、各大学の図書館の担当者により様々な取り組みが行われております。
 4-1で紹介した三重大学の事例も、その取り組みの一つに入れて良いのではないかと思われます。このように、自館のみならず他館のサービス向上にも貢献し、相互に活性化しあうことで、リテラシー力のボトムアップが期待できるのではないでしょうか。
 このような取り組みを行う図書館がある一方で、課題として教員との連携不足や内容がルーティンになりがち(スキルやモチベーションが不足、あるいは業務繁忙でといった理由で、結果として内容を練る余裕がない)等といった点を抱える館も多いと思われます。
 こういった課題を解決するには様々な要素をクリアしていかねばならず、具体的な内容を示すことは困難なのですが、ここでは、内容リテラシーを行う際の基本的な要素について、再確認の意味で次の三点を上げたいと思います。
 まず一点目は、リテラシーを有効にするためには図書館のサービス内容や個々の資料の特性について熟知するのは勿論ですが、相手となる利用者について知ることも重要なのではないかと言うことです。大学進学までの過程において、図書館の利用、あるいは情報の入手と活用についてどのような教育を受けていたか。図書館の利用以外にどのような方法で情報を入手することが多いのか。昨今は留学生や市民の受け入れ数も多く、利用者層はより多彩になっていますが、それだけに利用者の背景についてリサーチを行うことがより重要なのではないでしょうか。
 講義内容を知ることは勿論重要ですが、同じ講義を受けていても学生の理解度は個人差があると思われます。事前にガイダンス等の参加希望者から教えて欲しい内容についてアンケートを取る、あるいは講習の最中にも利用者の反応や希望によって内容を調整するなど、出来るだけきめ細かく、かつ柔軟な対応が可能なよう、図書館員のスキルを向上させる必要がありそうです。
 次の点は、電子ジャーナルやデータベースの導入に見られるように図書館のサービスも非来館型の利用が多くなっていることから、リテラシーもまた、非来館型の導入により時間・場所にとらわれない展開が必要なのではないかと言うことです。
 2004年の大会議案書号で、図書館ガイダンスをe-ラーニングで行うという日本女子大の取り組みを紹介しましたが、例えば自館で作成したビデオをHPで公開する、もしくはパワーポイントなどを活用し、ビジュアルな内容にして、利用しやすい内容にするなど、図書館ごとの特性やスタッフのスキル・業務量の範囲内で色々な方法を工夫することは可能であると思われます。
 最後に、「人」の問題として、専門職制によらない人事異動、アウトソーシングの進展にいわゆる「2007年問題」が加わり、マニュアルだけでは伝えきれない経験と知識をどのように継承していくかという点も引き続き考えていく必要があります。
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4-3 電子的サービス

 冒頭から余談で恐縮ですが、「電子的サービス」でGoogle検索するとかなりの割合で図書館関係のものが検索されます。図書館以外は自治体を含む電子政府関係だったりするので、要するにこれらは、わざわざ「電子的サービス」と謳わなければならない状況にあるのだということが分かります。
 
(1)Web2.0
そのような中でも、大学図書館もいわゆるWeb2.0的な流れとは無縁ではいられません。昨年の討議資料ではちょうど世間的にもWeb2.0が流行っている時期で、図書館でのWeb2.0への対応についても触れましたが、それから1年、世間は「Web2.0」という言葉に飽きつつあるのではないでしょうか。それは、わざわざ「Web2.0」という流行り言葉に頼らずに「Web2.0」的なものが内実化されつつある状況といってよいでしょう。
 翻って図書館では、飽きる以前に、Web2.0流行前とあまり状況が変わっていないように見えます。もちろん、昨年採り上げた林賢紀氏ら農林水産研究情報センターは着実に「OPAC2.0」的な世界を創りつつあるように見えますし、沖縄国際大学図書館の當山氏による「利用者のプロフィールを考慮した連想検索OPACの構築」(情報の科学と技術 Vol.56,No.11(20061101) pp. 520-525)http://ci.nii.ac.jp/naid/110004857465/ や、「Webcat PlusとGoogle Map APIのマッシュアップによる所蔵図書館マップ」http://myrmecoleon.sytes.net/map/ などの面白い事例も個別的には出てきています。しかし、これらは、個別的な対応になおとどまっているのが現状です。
 岡本真氏(「Web2.0」時代に対応する学術情報発信へ:真のユーザー参加拡大のためのデータ開放の提案(情報管理 49(11),632〜643,2007/2(ISSN 00217298))http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/11/49_632/_article/-char/ja)が、
   "「Web2.0」という思考が学術情報発信にもたらす価値は、
    1.ユーザー参加の拡大
    2.参加拡大のためのデータ開放
   である。そして、この2つを実現することで、学術情報発信はより一層促進され、
   最終的には学術研究そのものが活性化されるだろう。"
と述べているように、図書館/大学が持っている情報をどこまでオープンなアクセスに曝せるか、というのはなにも論文に限った話ではなく、いわゆる書誌情報/メタデータについても同様です。
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(2)オープンソース
 「Web2.0」と関係の深いオープンソースについては、オープンソース図書館システムプロジェクト NextL という興味深い動きがあります。このプロジェクトは、新しい図書館システムを、図書館に関わる人の力を結集し作り上げようというプロジェクトです。最終的には、自分たちで自由に改変でき,みんなの力で常に進歩しつづけるオープンソースの図書館システムを目指しています。今までも新しい図書館システムを作ろうというシンポジウムや、個人で新しい図書館システムをプログラミングするという取り組みもありました。しかし、要求を纏め上げるためにはもちろん、継続的にメンテナンスしていくためには、それを支えるコミュニティがなければ、実用的なオープンソースソフトウェアにはなりません。また、このプロジェクトは図書館員自身がプログラムをすることが目標でないので、図書館員の要求仕様を「多くの図書館の総意をまとめる形で」かつ「開発者にわかる形で」記述する必要があります。従って、このプロジェクトでは、第一にそのオープンソースを開発し維持していく図書館員自身のコミュニティを作ることを目的とし、要求仕様を図書館員にも理解でき開発者にも正確に伝わる一つの手段としてUMLを基礎として開発していくことを謳っています。
 オープンソース図書館システムについて、海外については以下のように報じられています。
   "オープンソース(OS)のILSの導入も,数値的にも
   存在感を示しはじめた。ジョージア州図書館庁が開発した“Evergreen”が,
   同州の公共図書館255館に導入され,またOSのILSの先駆的存在である
   “Koha”は,“Koha Zoom”などのアップグレード版が開発され,2006年末
   までに世界各国311館に導入されている。(CA1529,CA1605参照)"
   (「E641: 2006年から2007年へ: 図書館システム市場の動向は?」
  http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=658)
 また、同じ記事で以下のようにあるとおり、総じて日本の図書館システムは、WEB2.0的な対応で遅れをとっていると言ってよいと思います。
   "機能面の特徴としては,各社がユーザインターフェースの改善にしのぎを
   削った年であったことがあげられる。検索結果をファセット化して表示する
   ファセット・ブラウジング機能(E507参照),検索結果のランキング表示機
   能,ソーシャルネットワークの流れに乗ったレーティング機能やタギング機
   能(E595参照),そしてより視覚的に分かりやすいビジュアルナビゲーショ
   ン機能を追及する例が多くみられた。オランダのMedialab社が開発した
   “Aquabrowser Library”はタグクラウドやファセット・ブラウジングを実装"
 その他の例としては、ブログシステムを使ったWPOPACや、SNSを組込んだSOPAC(SocialOPAC)なども話題になりました。
 オープンソースであれば、もちろん、日本でも動かすこと自体はできますが、2バイト文字への対応やなによりNACSIS-CAT/ILLへの対応が、導入への大きな壁としてあるのではないかと思います。とは言え、DSpaceやePrintsがこれだけ日本でも普及するという前例が出来てしまいましたので、図書館システムも早晩、オープンソースで実運用されることが期待されます。
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(3)CiNiiなど
 Google Scholar とGoogle本体から、CiNiiなどの文献が検索可能になりました。(プレスリリース: http://www.nii.ac.jp/news_jp/2007/04/300niigoogle.shtml)これも一種のデータ開放といえ、これを端緒として、自由にメタデータを使えるようになっていく第一歩になるのではないかと思います。
 CiNiiはこのほか、画面をリニューアル、論文パーマリンク(特定の論文情報にリンクしやすいURL)、COUNTER準拠統計の提供、リンクリゾルバ対応、文献情報管理ソフト(EndNote, RefWorks等)向けエクスポート機能、医中誌Webとの相互リンクなどの改修を行いました。また、NII-REOもOpenURL受信機能を実装し、今後、AIRWayプロジェクトとの連携なども期待されます。また、NIIは、JuNii+(ジュニイ・プラス)機関リポジトリポータルを試験公開しています。
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4-4 機関リポジトリ

 機関リポジトリに関する2006年〜2007年にかけての主な動向としては、NIIのCSI事業、国立大学図書館協会によるデジタルコンテンツ・プロジェクトの中間報告書の刊行、REFORMに関する科学研究費研究成果報告書の刊行等を挙げることができます。
 国立情報学研究所(NII)は、国内の学術情報の発信・流通機能の向上を図るために、機関リポジトリの構築、連携の推進を図ることを目的して、次世代学術コンテンツ共同構築事業(CSI事業)に取り組んでいます。2006年度のCSI事業は、領域1「機関リポジトリの構築」と領域2「機関リポジトリ運用に関する先端的研究開発」にわかれ、57大学に事業が委託されています。2006年度の事業については、2007年3月に「次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業中間まとめ」がWebで公開されています。
 領域2で採択された例について見ていきますと、まず一つに「国内学協会等の著作権ポリシー共有・公開プロジェクト」があります。国内学協会の著作権ポリシーの確認ができる「学協会著作権ポリシーデータベース(SCPJ)」を公開しています。SCRJの運営には筑波大学、千葉大学、神戸大学が参加しており、2007年1月現在、各学協会への調査は神戸大学、データベースの維持は筑波大学を中心として行っています。
 二つ目として「リンク・リゾルバーを通じた機関資源へのアクセス(AIRway)」があります。リンク・リゾルバを通じて機関リポジトリ内の雑誌論文へのナビゲートする仕組み(AIRway)を開発するとともに、積極的な情報提供を目的とした研究開発プロジェクトです。AIRwayは、リンク・リゾルバに限らずOpenURLを通じたオープンアクセス文献の所在解決に広く応用が可能です。
 三つ目としましては「機関リポジトリコミュニティの活性化(DRF)」があります。DRFは、Digital Repository Federationの略で、参加大学が相互に情報を交換・共有し、各大学でのリポジトリの導入・運営に貢献しあうとともに、プロジェクト型のコンソーシアム活動を通じて、リポジトリの継続のための相互扶助的な活動方式やゆるい連携組織のあり方を模索することを目指しています。現在28機関がDRFの設立趣旨に同意しています。DRFは第1回目のワークショップ「日本の機関リポジトリの今2006」を2006年11月に千葉大学で、第2回目のワークショップ「機関リポジトリをデザインする−設計とコンテンツ」を2007年2月に早稲田大学で開催しています。
 NIIの方では、2006年7月〜9月に開催した学術ポータル担当者研修の成果物として、研修プログラム内の企画発表(機関リポジトリのプレゼンテーション)資料と研修のレポートを公開しています。2007年5月17日には、機関リポジトリポータル“JuNii+”(ジュニイ・プラス)の試験公開を開始し、全国の大学、研究機関が公開している機関リポジトリに収録されているコンテンツの統合検索をできるようになりました。
 国立大学図書館協会の動向としては、同協会学術情報委員会のデジタルコンテンツ・プロジェクト小委員会が、第2次の中間報告書となる「電子図書館機能の高次化に向けて:2 −学術情報デジタル時代化時代の大学図書館の取り組み−」を2006年6月に刊行しています。本報告書の中では千葉大学や北海道大学の機関リポジトリに関する活動状況がまとめられています。
 他方、各大学の動向としては、千葉大学では、2006年4月からエルゼビア社のScirus(サイラス)リポジトリ検索サービスに協力していますが、2006年10月からはScopus(スコーパス)中にCURATOR(千葉大学学術成果リポジトリ)のタブが設置され利便性が増しています。また、2007年4月に信州大学図書館が民間業者と共同開発した「研究者総覧及び機関リポジトリに関するソフトウエア」の無償提供を開始しました。研究者の業績一覧などを掲載する研究者総覧とリポジトリを連携させることで効果的な研究成果の発信を可能にしています。このソフトウェアは、電子ジャーナルやWeb of Science等へのリンクも可能になっています。
 また、平成16〜18年にかけて科学研究費補助金を受け大学図書館のリポジトリについて千葉大学の土屋教授が中心になって行っている「電子情報環境下における大学図書館機能の再検討(REFORM)」について報告書が刊行されました。本同報告書では、大学図書館の現状を把握するためのデータ収集の必要性、大学図書館自身における実証的大学図書館研究の必要性等が提言されています。また同研究は、「電子情報環境下において大学の教育研究を革新する大学図書館機能の研究」と課題名を変えて、科学研究費補助金の交付を受け、平成19〜21年度にかけて継続することが決まっています。
 最後に、日本における機関リポジトリはまだ成長過程の中にあると思います。REFORMの中でも、大学図書館の現状を把握するためのデータ収集の必要性が提言されていますが、今後、コンテンツを蓄積し、整備し、情報発信することを充実させていくためにも、また、土台となる基礎をしっかりと固める意味でも、まず自分たちが現在おかれている状況をしっかりと把握することが必要なのではないでしょうか。
[参考]
次世代学学術コンテンツ基盤共同構築事(CSI事業)」
  http://www.nii.ac.jp/irp/index.html
「次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業中間まとめ」
  http://www.nii.ac.jp/irp/info/2006/CSIH18report.pdf
「AIRway」
  http://airway.lib.hokudai.ac.jp/index_ja.html
「Digital Repository Federation」
  http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php
「学協会著作権ポリシーデータベース(SCPJ)」
  http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/scpj/
「REFORM」
  http://cogsci.l.chiba-u.ac.jp/REFORM/
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4-5 ILL

 第37回全国大会(2006年8月・さいたま市)では、課題別分科会のほかにラウンドテーブルにてもILLがテーマとして取り上げられました。ILL担当者が抱える最近の問題としては、e-DDS(電子的文献提供サービス)導入の検討、著作権への対応、ILL業務の効率化が挙げられたようです。
 ネットワーク利用の普及により、文献を電子的に転送することが可能となり、この技術のILL業務への応用が進んでいます。図書館間で電子ファイルの形で文献を送付するe-DDSのための必要機器や運用方法については、報告書だけで把握するのは困難であるため、導入館の担当者から、直接、事例紹介を受けることが有益です。また、利用者が図書館に来館しなくても、依頼した文献をプリントで受領できるシステムを導入している図書館も出てきました。電子転送のILL業務への活用はこれから進んでいくと思われますので、留意事項や助言、また今後の課題がありましたら、全国大会で紹介していただけると幸いです。
 ILLに関わる著作権の対応も、各図書館で配慮がなされています。卒業生や地域への大学図書館の開放に伴い、学内教職員・学生以外の利用者へのILLサービスの件数も増加していますが、著作権法31条を遵守した運用とすることが求められます。
 ILLに関連した著作権法の最近の話題として、国公私立大学図書館協力委員会を含む図書館団体が権利者団体の理解のもとに作成したガイドラインによって、2006年1月から、ILLで借り受けた図書の複写や事典の一項目全部の複写(複写物の写り込み)が可能となったことが挙げられます。とくに複写物の写り込みについては、辞典の1項目の複写に写り込まれる他部分の削除を利用者に伝える必要がなくなり、ILL担当者にとっては効率的であります。
 ILL業務の効率化に関する問題は、NACSIS-ILLのような全国的なシステムが存在するものの他手段による申込・受付も存在すること、雑誌ごとで著作権対応が異なることなど、統一した流れでILL申込の処理ができないことに起因しているようです。
 NACSIS-ILLシステムに関する動きについては、国立国会図書館への依頼機能が2007年3月31日で中止となり、2007年4月2日以降は、NDL-OPACによる依頼となることが挙げられます。
 また、国立大学図書館協会によるGIF(Global ILL Framework)プロジェクトでは、韓国KERIS(Korea Education & Research Information Service)とのILL/DD暫定のサービスについて、2007年4月2日からNACSIS-ILLとKERISとの接続による正式運用となるための準備も進められたとのことです。
 「大学図書館著作権問題Q&A(第5版)(国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会)」が2006年3月に発行されましたが、これはILL業務の最新動向が反映されたもので、各大学の担当者から作成者の方々への感謝の声があげられております。
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5.組織運営

5-1 「2007年問題」

 「平成17年度学術情報基盤実態調査報告」によると、大学図書館員の年齢構成上、構成比が最も高いのは46〜55歳(平成16年時点)で、21.2%(専任職員14.2%、臨時職員7.0%)となっています。「2007年問題」の団塊世代が属する56-63歳というカテゴリーは13.0%(専任職員9.3%,臨時職員3.7%)となっています。
 こうしてみると、企業などのようにいわゆる「2007年問題」に大学図書館が直面しているとは必ずしもいえないように見えます。しかし、各年齢層の構成比を見てみると以下のようになっています。
・ 36-45歳:19.3(専任:11.8,臨時:7.5)
・ 31-35歳:14.0(専任:6.7,臨時:7.2)
・ 26-30歳:15.0(専任:4.6,臨時:10.4)
・ 21-25歳:14.3(専任:2.3,臨時:11.9)
 若年層に行くほど構成比が下がるとともに、とりわけ専任職員の構成比が大きく減少していることが見て取れます。実数は下表に記してありますが、各年代は概ね若年に行くほど総数が減り、とりわけ専任職員が激減していることがわかります。
 私たちは長期的な「2007年問題」に向き合っているのであり、仕事、技術の継承をどう行なっていくかを真剣に考えなければならない事態を迎えているのではないでしょうか。
専任
臨時
20歳以下
2
250
252
21〜25歳
323
1,645
1,968
26〜30歳
628
1,438
2,066
31〜35歳
927
995
1,922
36〜45歳
1,621
1,038
2,659
46〜55歳
1,952
961
2,913
56〜63歳
1,283
513
1,796
64歳以上
63
131
194
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5-2 職員のスキルアップ

 図書館の現場は、専任職員、非常勤職員、派遣職員、業務委託と、さまざまな雇用・労働形態が混在するのが一般的と成りつつあります。私立大学において特にそれは顕著に現れています。
 こうした中で、職員のスキルアップを図るにはどうすればよいか。国公私立大学ともに「法人化」した、しつつあるという枠組みの中で活動して行くには、設置母体を超えた活動に一つの可能性を見出せるでしょう。
 その点で、「大学図書館近畿イニシアチブ」(略称、近畿イニシア)の活動には注目してよいでしょう。『大学図書館研究』No.78には、その設立に関わった大埜浩一氏の「近畿イニシアの能力開発活動:地域共同事業化による充実と補完」が掲載されています。ここでは近畿イニシアが主催した初任者研修をはじめ、e-learning的環境において行なうオンデマンド研修など、展開している能力開発事業が紹介されています。ここでの能力開発事業には、派遣職員や非常勤職員の参加も認めるなど、オープンな方式がとられているようです。
 地域ごとに大学図書館の協議体はいくつもありますが、その活動はこの近畿イニシアほどには活発ではありません。大埜氏は「日本では地域での共同事業の成功例が少なく多様性も乏しいように思える。原因や理由はいくつか考えられうるが、何よりも当事者の問題意識と解決の道を探る真剣さ次第と思われてならない」と述べています。
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6.法制度ほか

6-1 文字・活字文化振興法

 日本図書館協会(JLA)は平成18年10月に「豊かな文字・活字文化の享受と環境整備−図書館からの政策提言」を発表しました。(http://www.jla.or.jp/kenkai/mojikatuji200610.pdf)第3章「3.大学図書館の充実」では利用者の資料要求の多様性や専門性に対処すべく大学図書館のニーズは社会的に高まる一方で、資料費や専門職員の確保が課題とされ、予算措置、人的環境の整備、教育機能の充実を求めています。また館種を超えた図書館間連携の整備や、独立行政法人化への懸念で注目された国立国会図書館は国自らの責任で運営すべきということも述べられています。
 なお、文字・活字文化振興機構が今年10月に発足する予定です。
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6-2 著作権

 平成18年12月の第165回臨時国会において、著作権法の一部を改正する法律が成立しました。(公布日:平成18年12月22日 http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/tyosakukenhou_kaisei.html)一部を除き、平成19年7月1日に施行されます。今回の改正は、IPマルチキャスト放送に関する整備を主な目的として改正され、放送の同時再送信の円滑化をはかるため「放送の同時再送信」について、有線放送と同様の取扱い(報酬請求権化)とすることなどが制定されました。また、視聴覚障害者の用に供するため録音図書のインターネット配信を可能とする条文なども加わっています。(法37条3項)
 これに関しては、先のJLA提言でも「文字・活字文化への自由なアクセスが制限されている人たちへの施策」の必要性を求めていました。そのため、著作権法第37条の改正を挙げ、点訳・音訳化などを@許諾なく行えることA利用者を視聴覚障害者に限定しないことB対象施設を視聴覚障害者福祉施設に限定することなく、公共・学校・大学図書館など教育機関でも自由に行えるようにすることなどを要望しています。
 また、昨今注目されるのは、著作権保護期間延長をめぐる議論です。昨年9月22日、著作権問題を要える創作者団体協議会が著作権保護期間を死後70年に延長を求める共同声明を発表しました。一方、この期間延長に対する議論が尽くされていないことに問題を唱える発起人たち64名が「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議(現:フォーラム)」を発足。この国民会議は単純に保護期間延長に反対する立場を取るものではなく、まずはこの問題に関して議論を尽くそうという目的で発足されたものです。(http://thinkcopyright.org/)このフォーラムにおいて創作者、使用者など様々な立場からの賛否が盛んに議論されています。
 文化庁の文化審議会著著作権分科会では、2007年は4つの小委員会が設置されました。保護期間の延長などの問題は「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」で審議が進められることになります。ほかには「法制問題小委員会」「私的録音録画小委員会」「国際小委員会」が設置され、各小委員会での検討結果は報告書にまとめられる予定です。
 また、政府が絶版書籍をネット閲覧できるように著作権法改正を検討する動きを見せているとの報道がでました(2007年1月5日経新聞夕刊)。国立国会図書館など公的機関が、研究書や学術書などの専門書を非営利目的で公開することを想定し、絶版になってから数年経過したものについて、著作権者に一定の著作権料を支払うことで無許諾でもネット公開・保存できるようにするというものです。政府・知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2007」(2007年夏予定)にこうした方針を盛り込み、2008年の通常国会で著作権法改正案の提出を目指す予定とのことです。学術書のネット公開は海外の検索サイトでも盛んに進められており、著作権絡みの問題も度々取り沙汰されています。
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6-3 実名報道

 平成18年8月に山口県で起きた高専生殺害事件で、殺人容疑で指名手配された当時19歳の男子学生の実名・写真報道された新聞・雑誌をめぐり、図書館での取扱いについて対応が分かれました。少年法61条に配慮して週刊誌の該当記事を袋とじにしたり、新聞の顔写真に付箋を貼るなど閲覧制限を実施した図書館が新聞でも話題になりました。
 JLAではこの問題に関して見解を発表し「犯罪少年の推知報道については、提供することを原則とする」(ただし、閲覧制限については各図書館の自主的判断を尊重)という考えをまとめました。
これは、図書館の自由に関する宣言で「知る権利をもつ国民への資料提供を最も重要な任務とする」図書館の使命を重んじ、提供を原則とすることを改めて確認した形となりました。こういった社会問題と図書館の対応は、公共図書館の動きが注目されがちですが、大学図書館でも各館の毅然とした態度が求められることは言うまでもありません。
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6-4 ハンセン病の件名取扱い

 ハンセン病は、かつて「癩(らい)」「癩病」と呼ばれていましたが、1996年(平成8年)のらい予防法廃止以来、医学・法律・歴史的用語として使用される場合以外を除き「ハンセン病」と呼ぶよう改められました。JLAの発行する『基本件名標目表』では、4版(1999年改訂)にこれが反映され、ハンセン病の件名については「ハンセン病」の名辞が採用され、「癩」については「ハンセン病を見よ」との参照がつけれられています。
 ところが今年2月、ハンセン病関連の蔵書の件名に「癩」の語句が使われていると、鳥取県在住の方から指摘があり、県内図書館、JLAなどへ「ハンセン病」への表記の是正要請があり、全国の都道府県立図書館では修正が進められました。MARCでもこの件について修正がなされているとのことですが、旧版の件名を採用している図書については、「癩」のまま件名採用されているものも少なくないようです。
 これを受けて厚生省からも都道府県へ通達が出されました。JLAは見解を発表し、件名や参照は利用者が多様な検索語から目的の資料を見つけ出せるようにするためのものであることを説明して理解を求めました。また、「件名の名辞として何を採用するかはそれぞれの図書館が自立して判断すべきものであり、慎重な対応が必要」とも述べています。なお、ハンセン病への標記是正を求める鳥取の方は、今でも「癩」という一般件名で括られている多くの図書があることを指摘し、「癩」はハンセン病患者にとって屈辱的な歴史を重ねた文言であり、これを「ハンセン病」と替えることを願っていると強く訴えています。
 [参照]
・ハンセン病人権問題 図書件名が私たちに問いかけるもの
 http://sun.ap.teacup.com/hyoukimondai/33.html
・図書館雑誌2007年3月号 101(3)
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