研究発表について(9/8(土))
タイトル:
図書館展示における学習効果~情報サービス演習科目における実践的演習を通して


発表者:
矢崎美香(九州女子大学)

要旨:
  大学の図書館司書課程において司書の資格を取得する学生のほとんどは、自分の希望する職種に就くことが難しくなっている現在、その中でも毎年数人は図書館に就職するものがいる。そのほとんどは、公共図書館に就職するため、図書館展示のスキルは欠かせないものとなっている。しかし、多くの大学では、知識の教授は行うが、実践的に図書館を活用して図書館展示の演習を取り入れているところは少ないと推測する。
  そこで、九州女子大学人間科学部の図書館司書課程では、卒業後すぐに図書館員として活躍できるように「情報サービス演習Ⅰ」の授業内で、図書館展示を行い、展示に至るまでのプロセスとともに利用者ニーズについても学習し、図書館の貸出率向上に寄与することを目的として実施している。
  しかし、なぜ図書館業務の中で図書館展示を取り上げ授業内に導入したのか疑問視されるかもしれない。その理由は、学生の学習目標達成のための課題解決のプロセスが明確に表すことができるからである。それとともに現在、学生に求められている情報リテラシー能力の情報収集、整理、分析、評価、発信を実践的に行うことで、学生本人が自覚することができるからである。また、卒業後図書館に就職しない学生にとっても役に立つ能力となると考えたからである。
  本研究では、この学習目標達成のための課題解決のプロセス及びそれに伴う利用者の読書意識を向上させる貸出効果の事例を発表する。

参考文献:
(1) 米澤 誠 広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法(<特集>図書館の発信情報は効果的に伝わっているか? ) 情報の科学と技術, 2005, 55,(7), 305-309
https://doi.org/10.18919/jkg.55.7_305



タイトル:
出版情勢から大学図書館の役割を考察する


発表者:
磯本善男(北海道大学附属図書館)

要旨:
  ここ数年、日本でもオープンサイエンスについて活発に議論されるようになり、研究成果の公開・共有について、大学等でも取組みが始まっている。その一方で、大学図書館と密接な関係を持つ出版界の情勢について論じられる事は少ない。
  電子書籍の登場により、出版・流通の構造にも変化が出てきている。日本では、電子書籍の売上が好調な一方で雑誌や紙媒体の図書の売上は落ち込み、書店の倒産数も増えている。その一方でアメリカでは書店の売上高が僅かながら回復し、電子書籍の売上が減少に転じる等、日本とは異なる動きが見られる。
  機関版の電子書籍に目を向けると、紀伊國屋書店はKinoDenという新しいプラットフォームをリリースし、丸善雄松堂も動画対応コンテンツを取り入れる等、機関版電子書籍に注力しているのが伺える。EBSCOやProQuestといった海外のベンダーも、多様な販売形態を用意して、電子書籍の販売拡大を進めている。
  日本の流通業界を飲み込む勢いで成長しているアマゾンは、取次店に在庫のない図書について、取次店を通しての発注、いわゆるバックオーダー発注を停止し、「e託販売サービス」というアマゾンとの直接取引を推進する方向に舵を切った。この問題は日本の再販制度を揺るがす可能性を孕んでさえいる。
  学術情報流通を考えるには、出版界の情勢についても熟知しておかなくてはならない。本発表は、上記ようなの論題から日本と海外の出版情勢を俯瞰し、大学図書館が考えるべき問題点を洗い出す事を目的とする。

参考文献:
(1) 出版ニュース.東京,出版ニュース社,1946-.(ISSN 0036-2003)旬刊.
(2) 出版年鑑.東京,出版ニュース社,1946-.年刊.
(3) 松原聡編著. 電子書籍アクセシビリティの研究 : 視覚障害者等への対応からユニバーサルデザインへ. 東京, 東洋大学出版会, 2017, 176p. (ISBN 9784908590016).
(4) 長岡義幸. 「本を売る」という仕事: 書店を歩く. 東京, 潮出版社, 2018, 312p. (ISBN 9784267021121).
(5) 赤木昭夫. 書籍文化の未来 : 電子本か印刷本か. 東京, 岩波書店, 2013, 63p. (ISBN 9784002708737).